昨年六月の無差別殺傷事件後、歩行者天国が中止されている東京・秋葉原で、空きビル一階に路上感覚でライブができる空間「ライブパークインアキバ」が開設された。ホコ天中止で発表の場を失ったダンスなどアキバ系パフォーマーやアーティストの卵が集まり、新たな情報発信スペースになりつつある。不況も追い打ちを掛けて沈滞気味の街に、関係者は「世界のアキバへと活気づかせたい」と話す。 (松村裕子)
アニメキャラクターなどの色鮮やかな衣装で着飾ったコスプレのシンガーとバックダンサーが歌い踊る。オタクらしき人たちが舞台を囲み、踊りだす人も。ライブパークはJR秋葉原駅に近い中央通り沿いにある旧サトームセン(家電量販店)に開設された。シャッターは上げっ放しで、通り掛かりの人もふらりと入ってこられる。
出演したシンガー兼パフォーマーの初音リエさん(21)は「これまではアキバの外から発信していたが、やっと原点に戻ってきた。オタクでない人にも知ってもらえるのもうれしい」と喜ぶ。
観光で来た大阪府吹田市の男子大学生(21)は「アキバ・カルチャーを見たかったのにホコ天がなくて…。でもここで見られた」と満足そう。女性四人組のダンスボーカルユニットを見にきた足立区の男性会社員(30)は「ホコ天の路上ライブがなくなり寂しかった。違法な路上ライブは中止させられることもあるので、ホコ天が復活してもこんな場所を残してほしい」と話した。
もともと新宿区の不動産業者が見つけた空きビルを、別に営む音楽事務所の歌手の活動の場にしようとしたのがきっかけ。今年二月に開設すると、口コミで広まり、三十分ライブ一万円からという低価格に、アニメやメード姿のアキバ系からポップス、演歌、ジャズ、邦楽まで幅広いアーティストが集まり、土日曜は予約で埋まる。
許可がないと違法となる路上ライブと異なり、ビル内なので複雑な手続きはいらない。オープンスペースで、客層も広いのが出演者には魅力だ。
運営に携わるディレクターで和太鼓奏者の桐ケ谷伝さん(34)は「知り合った街の人は温かく、アキバを応援したくなった。いろんなアーティストがいて、誰でも楽しめる街になれば」と期待する。
ただ、このビルも今後、商業ビルとして利用される可能性もある。そのため、ライブパークとしての使用は現時点で五月十日までの予定だが、桐ケ谷さんらは「できればその後も続けたい」と話している。出演申し込みは「ライブパークインアキバ」のホームページでできる。
(東京新聞)