「検察の陰謀か」「選挙はどうなる」−。準大手ゼネコン「西松建設」(東京都港区)の脱法献金疑惑は三日、小沢一郎民主党代表の資金管理団体の政治資金規正法違反事件に発展した。総選挙間近、小沢総理誕生ともささやかれる中で、東京地検特捜部は、建設業界に大きな影響力を持つ代表の公設秘書逮捕に踏み切った。民主党議員は「国策捜査」と検察を批判、自民党議員は「民主党は国民を裏切った」と話した。
検察関係者によると、小沢代表の第一公設秘書、大久保隆規容疑者(47)はここ数日、任意で特捜部の事情聴取を受けていた。精神状態が次第に不安定になっていたという。
西松建設の捜査では先月二十四日夕、長野県の村井仁知事の衆院議員時代の公設秘書だった県総務部参事の右近謙一さん(59)が聴取を受けた後に自殺していた。憔悴(しょうすい)していた大久保容疑者も自殺の恐れが出てきたために逮捕する方針が二日夜に固まったという。
民主党にはそれだけに突然の逮捕。党本部での幹部会で小沢代表が秘書の逮捕容疑を否定しても議員には驚きと戸惑いが広がった。小沢代表は逮捕が報じられる前の午後四時すぎ、マスク姿で無言のまま車に乗り込んだ。
川内博史衆院議員は「小沢さんほど法令に従って処理する原理原則を重んじる人はいないはずだが…」。
事務所で事件を報じるニュース番組を見ていた中堅議員は「ダメージだ。なぜこんなことになるんだ」。ある参院議員は「代表自ら全国行脚をして地方組織にねじを巻いていたが、『おまえこそしっかりしろ』だ。代表交代もあるのではないか」と憤った。
一方、自民党本部には多くの報道陣が集まったが、党所属議員らが時折出入りする程度。武部勤元幹事長は「政治家の良心が問われる問題。政治全体が国民の信頼を失っていることは、日本にとって深刻だ。与党の側も信頼を失っているが、民主党も国民に対する背信行為だ」と厳しい口調で語った。
エレベーターから出てきた小池百合子元防衛相は「中身をよく知らない」と言って足早に車に乗り込んだ。
平沢勝栄衆院議員は「これからという時に民主党はいつも『ホップ、ステップ、肉離れ』になる」と指摘。ただ、「敵失を利用するのは邪道だ。政治不信を一掃するのが先決だ」と語った。
◆小沢氏 建設業界に影響力
自民党時代に幹事長を務めた小沢代表は、建設業界に君臨した田中角栄元首相や建設族のドンと呼ばれた金丸信・元自民党副総裁の腹心として、建設業界に大きな影響力を持ち続けてきた。一九九三年の自民党離党後も、野党でありながら抜群の資金力を誇った。
「小沢さんが業界で一目置かれるようになったのは、自民党時代に日米建設協議をまとめたのがきっかけ」
あるゼネコンの元役員はそう振り返る。八七年に竹下内閣の官房副長官に就任した小沢氏は、建設相でないにもかかわらず、建設市場開放を迫る米国を訪問。難航していた協議を一気にまとめて評判になった。
幹事長として仕切った九〇年の総選挙ではリクルート事件の逆風の中、建設・電力業界など経済団体連合会(当時)傘下の企業から三百億円を集めて勝利し、「剛腕」と呼ばれるようになった。
地元の岩手県では、有力建設業者やゼネコン各社の営業所などを中心に集票・集金力を誇り、自民党離党後も選挙のたびに建設業界はこぞって支援した。あるゼネコンの元営業所幹部はかつて「岩手県内の大型工事には小沢事務所の影響力が働いている」と話した。
離合集散で陰りがみえた影響力は民主党への合流で復活。代表になってからはかつて自民党の票田だった建設業界や旧特定郵便局長会と接近する一方、中央の「陸山会」と地元の民主党支部を中心に多数の団体・企業から資金を集め、毎年数億円の資金力を誇った。
二〇〇七年には陸山会の四億円を超す事務所費や、小沢代表の個人名義で多数の不動産を所有していることが批判された。小沢代表は記者会見で「事務所費は秘書宿舎の建設費用。個人名義の不動産は陸山会の財産であり問題はない」と釈明したが世間には、自民党時代と変わらぬ集金力を印象づけた。
(東京新聞)