魚がどのように聴覚を形成していくかを、名古屋大大学院理学研究科の小田洋一教授(神経科学)らのグループが解明した。音を信号に変換する内耳の発達が鍵を握っていることを立証。魚の脳は脊椎(せきつい)動物の基本形とされ、動物が音を聴くメカニズムの解明につながると期待される。
4日付の米国神経科学会誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス」に掲載され、写真が表紙を飾る。
熱帯魚「ゼブラフィッシュ」で実験。内耳にあり、音を信号に変換する機能を持つ「有毛細胞」や、音の刺激から逃げる時に働く脳内の「マウスナー細胞」(M細胞)が、受精後いつ働くようになるかを調べた。
M細胞に細いガラス管電極をあて、500ヘルツの音を流すと受精後、約40時間で初めて電気信号を記録。有毛細胞でも同様の時間に、音を信号に変換し始めており、この時期には音が聞こえていることが分かった。
両細胞をつなぐ聴神経の形成を調べると、約27時間の胚(はい)で、既に両細胞と結合していたことから、この時点で聴覚回路は事実上、完成していた。
この段階で有毛細胞を人為的に振動させると、M細胞は電気信号を感知。しかし、音は聞こえない状態で、小田教授は「微弱な音を電気信号に変換できるまで有毛細胞が発達しないと、回路はできていても音は聞こえない」と結論づけた。
実験では、神経細胞を可視化するため、2008年ノーベル化学賞を受賞した下村脩氏が発見したオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質が活用された。
(中日新聞)