経営悪化の責任を追及するとして初代トップら2人を相手取り、100億円規模の損害賠償請求を決めた新銀行東京(東京・西新宿)。他の旧経営陣のうち、非常勤の社外取締役7人(現役員3人を含む)については約87億円分の責任があると認めながら、総額で数千万円程度という報酬の「自主返納」を求めるだけにとどめた。
双方の責任の“分岐点”はどこにあるのか。あいまいな決着となった背景を検証した。
今月16日午後、都内のホテルで開かれた新銀行の臨時取締役会。弁護士事務所に委託した調査報告書を議論した後、旧経営陣の処分を決める段階で、出席した6人の取締役のうち、元東京地検特捜部長の石川達紘氏ら3人が決議から外れた。3人は、旧経営陣の一員で「利害関係人」だった。
残った3人のうち、都の新銀行設立本部長だった津島隆一、元都副知事で新銀行設立にかかわった大塚俊郎の両氏は都庁OBで、もう1人は元地方銀行幹部。彼らが出した結論は、〈1〉常勤の仁司泰正・元代表執行役兼取締役と、同じく代表補佐の丹治幹雄・元執行役に損害賠償を求める〈2〉石川氏ら社外取締役7人には報酬の自主返納を求める——となった。
調査報告書には旧経営陣への厳しい言葉が並んでいる。
新銀行は開業2年目の2006年7月末、目玉の無担保融資の焦げ付きが全体の約10%に上り、その後、焦げ付き額が金利収入を上回る状態が続いた。取締役会に財務データが毎月報告されており、報告書は「新規融資を止めるなどの対策を取るべきだったが、それを怠った」と指弾。その上で、仁司氏ら2人については約112億円もの損害に責任があると認定した。
ところが社外取締役の7人になると、このうち約87億円分の責任を認定する一方、「損害賠償請求の前にまず報酬の自主返納を求めるべき」と結論づけ、この日の取締役会もこれを踏襲する形になった。
新銀行では、会社を運営する執行役を取締役会が選び、会社運営を監視している。この形態を決めたのは都で、社外取締役7人の中には、都庁OBや、石原慎太郎知事の友人もいる。7人への責任追及が強まれば、その矛先は都にも及びかねない。なぜ仁司氏らと7人の責任のあり方にこれだけの差が出たのか。「都の責任は知事の責任論につながり、政治問題化する。だからあいまいな結論になったんだ」。7人のうちの1人はそう打ち明けた。
7人は月1回の取締役会に出席し、受け取った報酬は月額約50万円だった。「経営責任を問われるのは仕方がない」(元丸紅会長の鳥海巌氏)、「融資をやめろとは言えなかった」(元都部長の鹿島博之氏)など反応は様々だが、開業当初からの社外取締役で、検事時代に大型経済事件を数多く手がけた石川氏は「今度こそ辞める。責任があるという指摘は甘んじて受け止めるが、銀行を作った都に問題はないのか」と、今回の結論に疑問も呈した。新銀行によると、「7人はすでに自主返納の意向を示している」という。
取締役7人に求める報酬返納額は、公表さえされておらず、在職期間などに基づき計算される見通しだ。
会社法に詳しい川内克忠・立正大教授は「新銀行の取締役会は監査機能を果たさなかった。社外だからといって責任が格段に軽くなるのでは、初めから役割に期待していないのも同然。会社法の趣旨が損なわれかねない」と指摘している。(山崎純之介、中村剛)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090228-OYT1T00560.htm