「自分は……死刑になった方がいいと思ってます」
2003年6月24日、札幌高裁。被告人質問を受けていた及川和行被告(31)の言葉に、仲宗根一郎裁判長(62)は、思わず身を乗り出した。
及川被告は01年8月、北海道広尾町で近所の菊地肇さん(53)宅に盗み目的で侵入し、次女まさみちゃん(当時5歳)と長男哲也ちゃん(同2歳)を包丁で刺殺。1審・釧路地裁帯広支部で死刑を言い渡された。
2審から国選弁護人となった笹森学弁護士(55)は、何とか死刑を回避しようと、法廷で被告に更生の意欲を示させるという弁護方針を決め、1か月前の公判で、口数の少ない及川被告から「一生償っていきたいと思ってます」という供述を引き出していた。
「(前回の言葉と今回の言葉は)どう関連するの?」
仲宗根裁判長の問いかけに、及川被告は言った。
「昨日、弁護士から、まさみちゃんと哲也ちゃんが刺されている写真を見せてもらいました。自分がやったことは、自分自身では死刑だと思っています」
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今は退官している仲宗根裁判長は数多くの経験から、「量刑を判断する際、被告の反省の態度を見極めるのは非常に難しい」と身をもって感じてきた。
だからこそ、法廷では、被告の表情や雰囲気、言動のすべてに注意を払った。心の中が見えるはずはないけれども、外面に出てくるあらゆる手がかりを探す。反省を装っている可能性はあるかもしれないが、最初から演技と決めつけることは決してしない。そして、「3人の裁判官の見方が一致すれば、反省が本当かどうか、判断を誤ることはないだろう」と信じていた。
被告人質問で、及川被告が弁護方針に反して自ら極刑を望んだ姿は、「自責の念の自然な表れ」に見えた。2審公判中、及川被告は遺族に謝罪の手紙を送っていた。遺族から起こされた損害賠償請求訴訟も、被告側が2000万円を約60年かけて分割払いすることで、2審判決前に和解が成立した。
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「被告は自分の残虐非道な行為に思いを致し、真摯(しんし)な反省悔悟の念を抱いている。26歳という年齢も考えると、矯正の余地が十分残されている」
03年9月2日、仲宗根裁判長は、1審判決を破棄して無期懲役を言い渡し、その後、検察側が上告を断念したため、確定した。
遺族の菊地肇さんは「控訴審の途中から被告は言い方を変えたが、態度からは全然反省が伝わってこなかった」と無念さをかみしめる。妻の雅子さん(39)も判決に納得できない。「若いから更生の可能性があるだなんて……。幼くして殺されたうちの子たちはどう納得すればいいのですか」
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1980年に山梨県内で、大勝(おおかつ)和英さん(63)の次男司ちゃん(当時5歳)を誘拐、殺害した梶原利行受刑者(65)。無期懲役が確定して、24年近くになる。82年の甲府地裁判決は死刑だったが、85年に東京高裁で無期懲役に軽減され、「首から縄が取れた思い」と弁護人に語っていた。
〈今も食事の前に司ちゃんに謝罪し、月命日のお焼香を欠かしません〉。昨年11月、記者にあてた手紙にそう記している。
だが、和英さんは「反省していようがいまいが、私の気持ちに変化はありません。彼に対して思っているのは、『あんたは俺の息子の命を奪った』ということだけです」と語る。
及川被告は受刑者となり、現在、関東地方の刑務所にいる。無期懲役の確定を境に遺族への手紙は途絶え、損害賠償の分割払いも3年前から止まっている。(肩書は当時)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090227-OYT1T00010.htm