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2009年02月27日(金) 21時32分

新嘉手納基地爆音訴訟控訴審の判決要旨中国新聞

新嘉手納基地爆音訴訟の控訴審で、福岡高裁那覇支部が二十七日言い渡した判決の要旨は次の通り。

 【飛行差し止め】

 国に対する米軍機の離着陸の差し止め請求が認められるには、米軍機の運航を規制できる権限が必要だが、国に権限はなく、差し止め請求には理由がない。基地での米軍機の離着陸は在日米軍の公的活動そのもの。国際慣習法で民事裁判権が免除されており、米国への差し止め請求は不適法だ。

 差し止め請求という司法的救済を求めることはできないことになるが、原告が受忍限度を超える騒音にさらされている事実は明らか。旧訴訟でも認定されていながら、根本的な改善は図られていない。司法的救済の道が閉ざされている以上、国はより一層強い意味で、騒音状況の改善を図る政治的責務を負っている。

 【騒音の程度】

 国は騒音は区域指定図が作成された一九七七年当時より、ほとんどの地域で大幅に軽減されており、区域指定のうるささ指数(W値)に基づいて騒音の状況を認定することはできないと主張している。W値の想定するレベルと、国による測定結果との間に乖離がないか各地域ごとに検討する。

 W値九五—八五区域の騒音状況は、いずれも想定レベルか、想定よりも多少低いがほぼそれに相応するレベル。W値八〇区域はW値七〇前後を示している地点が多い。ピークレベルの年平均値はおおむね八〇デシベルを超え高い騒音が発生しており、うるささにはW値では評価し尽くせない面がある。相当に強い騒音にさらされており、想定の騒音に準ずるレベルで、少なくとも著しく乖離してはいない。W値七五区域はW値七〇前後の数値を示す地点が多いが、ピークレベルの高い騒音が発生。強い騒音にさらされており、想定に準ずるレベルで、少なくとも著しく乖離してはいない。

 【健康被害】

 九九年に沖縄県がまとめた調査から騒音と聴力損失の関連性を調べた解析結果は、仮説に基づいているなど信用性には限界がある。騒音が影響している可能性があるとは言えても、法的因果関係は認められない。健康への悪影響について不安を感じながら生活せざるを得ない点は、慰謝料の算定で考慮する必要がある。

 【受忍限度】

 W値七五区域でも、それなりに強い騒音にさらされ、被害も相当な程度に達している。受忍限度の基準値はW値七五と解釈するのが妥当。W値七五区域のうちでも、(読谷村の)座喜味とそれ以北の地域の騒音は、区域指定の想定するレベルとは著しく乖離しており、受忍限度を超えていないと評価せざるを得ない。

 【危険への接近】

 沖縄では、生まれ育った土地や親族が生活する土地に居住する傾向が強い。沖縄本島中部では、嘉手納基地の騒音の影響を受けずに居住できる地域は限られている。原告らの生活、睡眠妨害などの程度はかなり高い。国は七三年に政策的な目標値として環境基準を設定したが、相当程度の地域で未達成のままという事情もあり、危険への接近の法理を理由に国に損害賠償責任を免れさせるのは相当ではない。

 【防音工事】

 国の助成を受けて住宅防音工事を実施した場合、被害が一定程度軽減されたとするのが相当だが、高温多湿の沖縄では窓を開け放して生活する人が多く、防音工事は必ずしも効果を上げていないため、大幅な慰謝料減額の要素にはならない。

 【将来分の賠償請求】

 不適法として却下すべきだ。

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200902270264.html