【歴史の教訓】
なぜなら歴史の教訓は異なるからだ。経済が激変したり転換した時はいつも、わが国は大胆な行動と大きな思想を持って立ち向かってきたことを歴史はわれわれに想起させる。南北戦争の最中、われわれは一方の海岸から他方の海岸に向かう鉄道を敷き、商業と産業を活性化させた。産業革命の混迷の中から公立高校のシステムが生まれ、市民は新時代に向けて準備することができた。戦争と不況の後、復員兵援護法による大学教育で、歴史上最大の中産階級が生まれた。そして自由への苦闘が高速道路網につながり、米国人を月に送り、今日の世界を形作る技術の爆発的進歩を生んだ。
どんな時でも政府が民間企業に取って代わることはなかった。政府は民間企業を刺激する触媒の役割を果たしてきたのだ。何千もの起業家や新興企業が順応し、繁栄するための条件を政府はつくり出してきた。
われわれは危機の中に希望を見いだし、苦難の中から好機を引き出してきた国民だ。われわれは再びそのような国民であらねばならない。だからこそ不必要な計画を刈り込みながらも、わたしが提案する予算は、将来の経済に死活的に重要な三つの分野に投資するのだ。その三つとはエネルギーと医療、そして教育だ。
【再生エネルギー】
まずエネルギーから始めよう。
クリーンで再生可能なエネルギーの力を活用する国こそが、二十一世紀をけん引する。エネルギー効率が高い経済をつくるため、史上最大の取り組みを表明したのは中国だ。われわれは太陽光発電を発明したが、製品化ではドイツや日本に後れを取っている。われわれの工場では新型の(家庭用電源で充電できる)プラグイン・ハイブリッド車が生産されるが、動力のバッテリーは韓国製だ。
雇用が創出され新しい産業が根付いていくのがわが国の外だという未来は、わたしには受け入れられない。皆さんもそうだろう。今こそ米国が再び先頭に立つ時だ。
再生計画の導入により、この国の再生可能なエネルギーの供給量は今後三年間で倍増する。また、われわれは基礎研究に米国史上最大の投資をしてきた。エネルギー分野で新たな発見が増えるだけでなく、医学や科学、工学分野でも飛躍的な前進があるだろう。
近く、国中の都市や町に新エネルギーをもたらす何千マイルもの配電網を敷く。住宅やビルのエネルギー効率を高め、何十億ドルもの節約ができるようにする。
しかしわれわれの経済を真に変革し、安全を保障し、気候変動による破壊から地球を救うためには、究極的にはクリーンで再生可能なエネルギーを利潤性のあるものにしなければならない。
このためわたしは議会に対し、温室効果ガスの排出量取引市場を導入し、国内でのさらなる再生可能エネルギーの生産につながる法案を求める。そしてその新機軸を支えるため、風力発電や太陽光発電、次世代バイオ燃料やクリーンな石炭、米国産の燃費効率の良い車やトラックの開発などのために年間百五十億ドルを投資する。
われわれの自動車産業が、長年にわたる誤った経営判断や世界的な不況でがけっぷちに立たされていることは皆が承知している。誤りを犯した業界を保護すべきでないし、そのつもりもない。しかし、競争力がある、改善された自動車産業という目標を達成すると明言する。数百万人の雇用がそこに懸かっている。多くの地域社会の頼みの綱でもある。そして、わたしは自動車を発明した国家が、そこから立ち去ることはできないと信じている。
いずれも犠牲を伴わないわけではなく、簡単でもない。しかし、ここは米国だ。われわれは簡単なことはやらない。この国を前進させるために必要なことを行うのだ。
【医療】
同じ理由で、われわれは医療分野の破壊的なコストの問題にも力を注がなければならない。これは米国で三十秒ごとに破産を生み出す原因となっている。年末までに、百五十万人の米国民が家を失うかもしれない。過去八年間に保険料は賃金の四倍の速さで高騰してきた。その間、毎年百万人以上の米国民が医療保険を失った。これは小さな会社が営業をやめ、企業が海外に雇用を求める大きな原因の一つとなってきた。そして、われわれの予算の最大かつ最速に膨れ上がっている部分でもある。
こうした事実を考慮すると、もはや医療保険改革は待ったなしの状態だ。
既にこの三十日間で、医療保険改革の推進のため、過去十年よりも多くのことを成し遂げた。親がフルタイムで働く子ども千百万人に医療保険を与える法律が議会を通過したのは、新議会発足から間もなくのことだった。われわれの再生計画は、診療記録を電子化するとともに、間違いを減らし、費用を削減し、プライバシーを確保し、生命を救うための新技術導入に投資する。
われわれの時代にがんの治療法を探求することで、ほぼすべての米国人の生命に影響を与えてきた病を克服するための新たな取り組みを始める。それは予防治療に向けた過去最大の投資となる。国民を健康に保ち費用を抑制するための最も良い方法の一つだからだ。
この予算はこうした改革を積み重ねたものだ。包括的医療保険改革に向けた歴史的な約束が含まれる。すべての国民のため質が高く、手ごろな医療保険を与えるという原則の第一歩だ。長年の懸案だった制度の効率化によって、約束の一部は実現できる。今後の財政赤字を減らすために、われわれが取らなければならない手段だ。
改革達成の方法についてはさまざまな意見や考えがあるだろう。このため、わたしは来週、企業人と労働者、医師と公的医療保険関係者、民主党員と共和党員を集め、この問題に取り組み始める。
容易な道のりだという幻想は抱いていない。困難ではある。セオドア・ルーズベルト大統領が初めて改革を呼び掛けてから一世紀近くがたって、医療保険のコストが米経済や米国の良心を圧迫してきた。医療保険改革はもう待てないし、待ってはならない。一年の猶予もないのだ。
【教育】
力を注ぐべき第三の課題は、米国の教育の将来性を早急に広げる必要があるということだ。
もっとも有用な技能は知識であるという世界経済においては、優れた教育はもはや単にチャンスをつかむための手段ではない。それは必須条件だ。
現在、急成長を遂げている職種の四分の三について言えば、高校卒業証書以上のものが必要とされる。しかし、半数を超える市民が得てきた教育はその(高校卒業)程度のものだ。あらゆる産業国家の中でも、われわれの高校中退率は最も高い部類に入る。そして学生の半数が大学に入っても、最後まで終えることができない。
これは、衰退した経済を克服するための処方せんだ。今日われわれを模範としている国家が、明日にはわれわれを打ち負かすだろう。だからこそ、すべての子どもたちが生まれた日から仕事を始めるその日まで、完全で競争に耐え得る教育を受けることができるようにすることがこの政権の目標なのだ。それが米国の子どもたちに対する約束なのだ。
既にわれわれは景気対策法を通して教育分野への歴史的な投資を行った。われわれは幼児期教育を劇的に拡充させた。今後も教育の質を改善していく。なぜなら、最も発達に寄与する知識はこうした人生の初期に生まれることをわれわれは知っているからだ。
われわれは大学の受け入れ人数を七百万人近く増やした。そして、子どもたちの進歩を遅らせるような痛みを伴う予算の削減や教師の人員削減を避けるため、必要な財源を供給した。
しかし、われわれは、学校が単にさらなる財源を求めているだけではないことを知っている。さらなる改革を必要としているのだ。このため、今回の予算教書は教師を増やし、教師の実績に対する奨励金を創設した。前進への道であり、成功への報酬だ。
われわれは学校が高い水準を満たし、学力の差をなくすために既に貢献している革新的プログラムに投資する。そして(公設民営の)チャータースクールへの関与を広げていく。
こうしたシステムを機能させるのは、政治家や教育者としてのわれわれの責任だ。しかし、システムに参加するすべての市民の責任でもある。そして今夜、わたしはすべての米国民に対し、高等教育や職業訓練のために一年か一年強の時間をささげるよう求める。(生涯教育などを行う)コミュニティーカレッジでもいいし、四年制大学や職業訓練、見習い実習でもいい。
しかし、訓練がどのようなものであろうとも、すべての米国民が高校の卒業証書以上のものを得る必要があるだろう。高校を中退するという選択肢はもはやなくなる。それはあなたたち自身を見捨てるだけでなく、あなたの国を見捨てることにもなる。この国はすべての米国民の能力を必要とし、評価している。
若い米国民が大学を卒業し、新しい目標を見つけるために必要な支援をわれわれが提供しているのは、このためなのだ。二〇二〇年までに米国は再び、大学卒業者の割合が世界で最も高くなるだろう。それがわれわれの目標だ。
授業料はこれまでになく上昇している。もし隣近所のボランティアや地域への還元、国への奉仕をしようと考えるなら、あなたがより高い教育を受けられるようにしよう。現在と、未来の世代に向けた国家奉仕の精神を取り戻すために、オリン・ハッチ上院議員(共和党)や、国のために何ができるのかを考え続けてきた米国人、エドワード・ケネディ上院議員(民主党)の名を冠した超党派の法律をわたしに送付するよう、議会に要請する。
こうした教育政策は子どもたちに機会の扉を開く。しかし、子どもたちが確実に歩んでいけるかどうかは、わたしたちにかかっている。結局、母親や父親の代わりができる政策はないのだ。保護者と教職員の会議に出席したり、夕食後やテレビを消した後、ビデオゲームを終えた後に宿題を手伝ったり、子どもに読み聞かせたりするのだから。
単に大統領としてだけではなく、一人の父親として、子どもたちの教育に対する責任は家庭から始まるべきだと主張する。それは共和党の問題でも民主党の問題でもない。米国の問題だ。
もちろん、子どもたちに対するほかの責任もある。それは、子どもたちが払うことのできない借金をかぶせることはないと確約する責任である。それが重要だ。われわれは赤字を引き継ぎ、危機に直面し、長い時間をかけた取り組みをしなければならない。経済が回復すれば赤字を減らすように取り組むと確約することが、これまでになく重要なことである。
【財政再建】
わたしは特定の条件なしに再生計画が通過したことを誇りに思う。来年は最も重要な国の優先課題にのみドルが費やされることを保証する予算案を通過させたい。
(議会指導部らと超党派で財政再建を話し合う)昨日の「財政サミット」で、わたしは一期目(の四年間)が終わるまでに財政赤字を半減させると約束した。わたしの政権は、無駄で効果のない施策を削るため連邦予算の詳細な見直しを始めた。ご想像の通り、時間がかかる作業だ。だが既に今後十年間で二兆ドルを節減できる見通しだ。
今回の予算では効果のない教育プログラムをやめ、大規模農業への不必要な直接支払いをやめる。イラクで何十億ドルも無駄にした随意契約をやめ、もはや使わない冷戦時代の兵器システムに支出しないよう国防予算を見直す。高齢者の健康増進に寄与しない医療保険の無駄や不正、乱用を根絶し、海外に雇用を流出させる企業への税優遇策を最終的に廃止し、税制の公平さとバランス感覚を取り戻す。
将来の借金から子どもたちを守るため、米国民の2%に当たる最裕福層への税優遇策もやめる。こうした政策は米国民への大規模増税を意味するというおなじみの主張を繰り返し聞くことになるかもしれないが、ここで明確にしておきたい。
もし家族の年収が二十五万ドル以下なら一文たりとも税金は上がらない。繰り返す、一文たりともだ。事実、再生計画では減税が実施される。そう、95%の勤労者世帯にとって減税になる。(こうした減税策は)目の前にある。
財政の長期的健全性を維持するためには、増大する医療保険と社会保障の費用にも焦点を当てなければならない。包括的な改革が、医療保険強化の最善の方策だ。無税の貯蓄口座制度を創設する一方で、公的年金にもどのようにして同様の措置をとれるのか話し合いを始めなければならない。
【テロとの戦い】
最後に、わたしたちは信頼の欠如にも苦しんでいるので、予算には誠実さと説明責任を持たせるようにした。だからこそ、この予算は十年先を考慮に入れ、古いルールの下にあった歳出にも説明を付けた。初めてイラクとアフガニスタンでの戦費を明らかにした。戦時体制は七年間に及んでいる。その費用はもはや隠さない。
わたしは卓越した国家安全保障チームとともに両戦争の政策を注意深く再検討している。イラクをイラク人の手に委ね、責任ある形で戦争を終わらせる方策を近く発表する。
国際テロ組織アルカイダを打ち負かし過激主義と戦うため、友好国、同盟国とともにアフガン、パキスタンにおける包括的な新戦略を練り上げる。地球の反対側にある隠れ家から米国民へのテロを計画させない。
今夜、われわれがここに集まっている時、わが軍の兵士らは海外で見張りに立っており、派遣される準備をしている者もいる。彼らと彼らの不在にじっと耐えている家族に対し、米国民は団結して一つのメッセージを送ろう。われわれはあなた方の奉仕を誇りに思い、あなた方の犠牲に鼓舞され、あなた方には揺るぎない支援があるのだというメッセージを。
軍の負担を軽減するため、予算教書では兵士や海兵隊員の増員を盛り込んだ。奉仕する者への神聖な信頼を維持するため、兵士の給料を上げ、退役軍人への医療制度や給付金を増額するつもりだ。
過激主義を克服するには、われわれの部隊が守っている価値を維持することに用心深くならなければならない。世界で米国が示す模範よりも強力なものはないのだ。だからわたしは(キューバの)グアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容施設の閉鎖を命じた。捕まっているテロリストたちに迅速で信頼できる法の裁きを受けさせるつもりだ。われわれは価値観を体現することで弱くなることはない。より安全に、より強くなるのだ。だからわたしは本日、ここに立ち、例外やあいまいな表現なしに、米国は拷問をしないと公言する。今夜この場で約束する。
【国際協調】
言葉と行いによって、われわれは世界に対し、新たな積極関与の時代が始まったのだということを示している。米国は今世紀の脅威に単独で対応することはできず、また世界も米国なしで脅威に立ち向かえない。われわれは交渉のテーブルを避けることはできないし、われわれを傷つけ得る敵や武装勢力を無視することもできない。その代わり自信と公正さをもって前進することが求められている。深刻な時代がそれを要求しているのだ。
イスラエルとその周辺国の安全と永続的な平和に向けた進展を求め努力を続けるため特使を任命した。テロや核拡散、流行病、サイバースペースの脅威、深刻な貧困など二十一世紀の難題に対応するため、われわれは旧来の同盟関係を強化し、新たな同盟関係を築き、国力のすべてを使うだろう。
世界的規模の経済危機に対処するため、世界の二十カ国・地域(G20)と協力する。金融システムへの信頼を回復し、保護主義拡大を防ぎ、世界市場で米国製品への需要を喚起するためだ。力強い経済のために世界は米国に依存しているし、米経済も世界経済の強さに依存しているからだ。
歴史の岐路に立つ今、全世界のあらゆる人々がいま一度われわれを注視している。米国がこの瞬間に何をするかを注視し、われわれが先導するのを待っているのだ。
今夜集まったわたしたちには、特別な事態を取り仕切ることが求められている。大変な重責ではあるが、素晴らしい特権でもある。米国でこうした重責と特権を委ねられた世代は一握りだけだ。よかれあしかれ、世界を形作る力はわれわれの手の内にある。