【米国人の夢】
こうした真理を見失い、世をすねて疑いを抱き、ささいな事にこだわるのは簡単だ。
しかし、希望は思わぬところで見つかるということも、わたしは人生の中で学んできた。大きな権力や名声がある人ではなく、ごく普通の米国人が抱く夢や大志から、アイデアの源が見つかるのだ。
フロリダの銀行の頭取、レナード・アベスさんのことを思う。彼は銀行から受け取った六千万ドルのボーナスを、三百九十九人の全行員と七十二人の元行員に分け与えたという。自ら公表はしなかったが、地元紙が取り上げた際、彼は「自分が七歳の時から知っている人たちもいる。自分だけがお金を手にするのはいい気分がしなかった」とだけ語った。
竜巻で完全に破壊され、住民の手で再建が進むカンザス州グリーンズバーグのことを思う。クリーンなエネルギーは地域全体に力を与え、一度はがれきに覆われてしまった場所にも雇用やビジネスの機会をもたらす。グリーンズバーグはそれを世界に示した。「大変な悲劇だった」。住民の再建を手助けしている男性は語った。「しかし、ここの住民たちは、思わぬ好機にも恵まれたことを理解している」
そして、わたしが訪れたサウスカロライナ州ディロンの学校の少女、ティシェーマ・ベシアさんのことを思う。彼女の学校では天井から雨漏りし、壁のペンキははげ落ち、教室のすぐ脇を列車が走るために授業を一日に六回も中断しなければならない。学校はあきらめていると聞かされたが、ある日の放課後、彼女は図書館に行き、ここにいる皆さんにあてて手紙を書き上げた。校長先生に切手代をもらい、手紙で助けを求めた。
「わたしたち学生は法律家や医師、皆さんのような議員に、そしていつの日か大統領になろうと努力しています。わたしたちはサウスカロライナ州だけではなく、世界に変化をもたらすことができるのです。簡単にあきらめたりしません」
彼女はそう言った。
【決意】
われわれはあきらめない。
これらの言葉や逸話は、われわれをこの場所に送り出した人々の精神を物語っている。彼らは最も苦しいときであっても、最も困難な状況にあっても、寛容の精神や回復力、良識、そして忍耐する決意があることを教えている。将来と繁栄に対する責任を担う意欲である。
彼らの決意をわれわれは刺激とすべきだ。彼らの懸念はわれわれの大義である。そしてわれわれは彼らと国民すべてに、目の前にある課題に対して皆が平等であることを示さなければならない。
われわれが今のところすべての点で意見が一致しているわけではないことは承知している。将来道を分かつときも確実にあるだろう。だが今晩ここに座っている米国人の一人一人が国を愛し、国の成功を願っていることも知っている。
それが今後数カ月におけるすべての議論の出発点であり、議論が終わった後で立ち戻る場所であるべきだ。それこそが国民がわれわれに合意点を見いだすことを求めている礎である。
われわれが協力し、この国を危機の深みから引きあげるならば、また人々を仕事に復帰させ繁栄の原動力を再始動させるなら、恐れずにこの時代の挑戦に立ち向かい、あきらめることのない米国の永続する精神を奮い起こすなら、いまから何年も後の将来、子どもたちがその子どもたちに、あの時にわれわれが行動したと伝えることができるだろう。
まさにこの議場に刻まれている言葉の通りである。「価値のあることは記憶される」。ありがとう。皆さんに神のご加護を。そして米国に神のご加護を。ありがとう。
(共同)