二十四日のオバマ米大統領の施政方針演説は、ブッシュ前大統領の政策と決別し、米国の「変革」と「再建」を訴える表現が随所に見られた。
注目される英語表現(1)米国の再建(2)総決算の日(3)繁栄の礎(4)新たな関与の時代(5)あきらめない—を取り上げ、日本語訳と解説を付けた。
(1)米国の再建
We will rebuild, we will recover, and the United States of America will emerge stronger than before.
【訳】われわれは国を再建し、回復させる。米国は以前より強い国家としてよみがえる。
【解説】オバマ大統領は演説の冒頭、米経済危機の現状に厳しい認識を示しながらも、''We will'' を繰り返し、''rebuild''と''recover'' と頭韻を踏む印象的なフレーズで米国再生への強い意志を示した。さらに、単に再建、再生するだけでなく「以前より強い国家」となることを宣言し、未曾有の経済危機で失業など困難に直面する国民を鼓舞した。1月20日の就任演説では選挙運動のキャッチフレーズとなった''change''や''yes, we can''という言葉をほぼ封印し、堅実な話しぶりを見せた大統領だが、今回の演説では選挙中の熱気を取り戻したかのような力強い言葉で、満場の喝采を浴びた。
(2)総決算の日
Well that day of reckoning has arrived, and the time to take charge of our future is here.
【訳】総決算の日が来た。未来への責任を引き受ける時が来たのだ。
【解説】これまで長らく米国が長期的な繁栄よりも目先の利益を優先して来た結果、「重大な議論や難しい決定は先送りされてきた(critical debates and difficult decisions were put off for some other time on some other day)」と述べ、ブッシュ政権を批判した。''Day of reckoning''はキリスト教などで、世界の終末に人類の罪が神に裁かれる「最期の審判(the Last Judgment)」を表す言葉としても使われ、「報いを受けるとき」という意味もある。大統領はこの言葉を使って、利益優先主義に陥ってきた政府や企業、消費社会にどっぷりつかった国民に反省を促した。そして「現在の状況にどのように立ち至ったかを理解することでしか、苦境を脱することはできない(it is only by understanding how we arrived at this moment that we'll be able to lift ourselves out of this predicament)」と説いた。
(3)永続的な繁栄の礎
Now is the time to act boldly and wisely - to not only revive this economy, but to build a new foundation for lasting prosperity.
【訳】経済再生だけでなく、永続的な繁栄の新たな礎を築くため、今こそ大胆かつ賢明に行動すべき時だ。
【解説】オバマ大統領は「エネルギー」「医療」「教育」といった「将来の経済に死活的に重要(absolutely critical to our economic future)」な分野に投資する時だと力説した。せっかく米国が発明した太陽光発電でもその製品化ではドイツや日本に負けているなどの不本意な現状を認めた上で「今こそ米国が再び先頭に立つ時だ(It is time for America to lead again)」と国民を鼓舞した。大統領は「医療分野の破壊的なコスト(the crushing cost of health care)」も問題視。経済の衰退を防ぐ意味でも教育の問題は「民主党の問題でもなく、共和党の問題でもなく、アメリカの問題なのだ(That is not a Democratic issue, or a Republican issue. That's an American issue)」と、用意した原稿にないフレーズをも繰り出し、国民が一丸となって取り組む必要性を強調した。
(4)新たな関与の時代
In words and deeds, we are showing the world that a new era of engagement has begun.
【訳】言葉と行動によって、われわれは世界に対し、新たな関与の時代が始まったということを示している。
【解説】オバマ大統領は外交政策でも「単独行動主義」と批判されたブッシュ政権との違いを、1月の就任演説に続いてあらためて強調した。「新たな関与の時代」の到来を宣言し、核問題を抱える北朝鮮やイランを念頭に直接対話を模索する方向性を示唆。テロの脅威などの問題については「われわれを傷つけ得る敵(the foes or forces that could do us harm)は無視できない」と、毅然と対応する姿勢を示す一方で、「米国単独では脅威に対応できない(America cannot meet the threats...alone)」「交渉のテーブルを避けることはできない(We cannot shun the negotiating table)」と、外国との協調や対話を重視している。国際テロ組織アルカイダと戦うためのアフガニスタン、パキスタン戦略についても「友好国、同盟国とともに(with our friends and allies)練り上げる」と述べた。人権侵害や国際法違反が指摘されたグアンタナモ米海軍基地内のテロ容疑者収容施設閉鎖にもふれ「米国は拷問をしない(the United States of America does not torture)」と明言した。
(5)われわれはあきらめない
we can make a change to...the world. We are not quitters.
【訳】わたしたちは世界に変化をもたらすことができるのです。簡単にあきらめたりしません。
【解説】先月の就任演説で「希望」をもって困難に立ち向かうよう国民に呼びかけたオバマ大統領は、この日も「希望は思わぬところで見つかる(Hope is found in unlikely places)」と発言。世界を襲う経済危機などさまざまな苦境にも前向きな気持ちで臨む大切さを説いた。演説で引用したのは、古びた校舎や授業中の騒音に悩まされながらも勉学に励む米サウスカロライナ州の少女が、助けを求めて議会に書いた手紙の一節。「『わたしたちはいつの日か(略)大統領になろうと努力しています。サウスカロライナ州だけではなく、世界に変化をもたらすことができるのです。簡単にあきらめたりしません(We are not quitters)』。彼女はそう書いた」。この「あきらめない」という言葉を、50分あまりの演説の終盤でゆっくりと2度繰り返した大統領に議場からは割れんばかりの拍手が30秒以上鳴りやまなかった。