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2009年02月26日(木) 15時11分

元運転手に禁固1年8月の実刑判決 東名タイヤ脱落事故東京新聞

 静岡県牧之原市の東名高速の大型トラックタイヤ脱落事故で、自動車運転過失致死傷罪などに問われた元トラック運転手山本丈喜被告(38)に対し、静岡地裁は26日、禁固1年8月、罰金20万円(求刑禁固2年6月、罰金20万円)の判決を言い渡した。

 長谷川憲一裁判長は事故原因について、山本被告が法定点検を怠ったことによるトラックの整備不良と認定。「ただの一度でも点検を行っていれば、事故は防ぎ得た。走る凶器に等しい整備不良の10トントラックを多数の車が通行する高速で運行しており、交通安全意識の低さ、慢心、鈍麻も甚だしい」と述べた。

 公判で、山本被告は起訴内容を認め、争点は実刑か執行猶予刑かの量刑判断に絞られていた。同被告の弁護人は、控訴を検討するとしている。

 判決は事実関係を認めた上で、タイヤ脱落の経緯について、少なくとも事故の4カ月前に固定ボルト8本のうち2本が破断し、それに気付かずに運行を繰り返すうち、金属疲労の蓄積で残る6本が折れて脱落したと認定。山本被告が07年5月の車検以降、乗車前や3カ月に1度の法定点検を怠っていた点を指摘して「10年以上のキャリアがありながら、一般ドライバーでも容易に分かるボルトの破断を見逃した」と断罪した。その上で「一社員に全責任を負わせるのは厳しすぎる」などと猶予付き判決を求めた弁護側主張については「結果の重大性と犯行態様の悪質性から、執行猶予は相当ではない」と退けた。

 一方で、亡くなったバス運転手の関谷定男さん=当時(57)=について「被害が最小限にとどまったのは、高度の交通安全意識を有するバス運転手が最後の一瞬までブレーキを踏み続けた結果」とたたえた。

 「実刑判決です」。長谷川憲一裁判長が言い渡した判決を、山本被告は前方を見つめたまま聞いた。実刑を求め続けた遺族は、傍聴席で胸に遺影を抱えたまま手で顔を覆った。

 山本被告は、黒いスーツ姿で入廷。判決でずさんな車両管理を指摘されると、顔を紅潮させてうつむいた。

 弁護人によると、山本被告は今も「京阪産業」の社員だが、逮捕後は働いておらず、会社も廃業状態。現在、妻と子どもの家計を支えるため求職中で、執行猶予付きの判決を求めていた。

 亡くなった関谷定男さんの妻・登美子さん(56)は、長男らと並んで傍聴席に座った。昨年11月の公判では「点検整備を欠かさなかった夫がなぜ、整備不良のトラックが原因で死ななければならないのか」と訴えた。判決理由が述べられると、涙をこらえながら、被告の背中を見つめた。

 <東名トラックタイヤ脱落事故> 静岡県牧之原市の東名高速で2008年4月11日午前11時10分ごろ、廃棄物運搬業「京阪産業」(静岡市清水区)の大型トラックのタイヤが走行中に脱落し、対向の名阪近鉄バス(名古屋市中村区)の観光バスを直撃。運転手の関谷定男さん=当時(57)、岐阜県大垣市=が死亡、乗客3人が軽傷を負った。自動車運転過失致死傷と、別の時期に過積載を繰り返した道交法違反罪で山本丈喜被告が起訴され、監督責任を問われた専務(61)が業務上過失致死傷罪などで08年8月、罰金100万円の略式命令を受けた。

(中日新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2009022690144307.html