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2009年02月26日(木) 00時19分

オバマ米大統領施政方針演説全文<1>中国新聞

 オバマ米大統領が二十四日行った施政方針演説の全文は次の通り。

 議長、副大統領、議員の方々、そして米国の大統領夫人(ファーストレディー)。

 【経済危機】

 わたしが今夜、ここに来たのは、偉大な議場にいる選ばれた議員の前で演説を行うためだけではなく、われわれをこの場所に送ってくれた人々に率直に、直接語りかけるためだ。

 今(演説を)見ている多くの米国民、そしてすべての人々にとって、米国の経済状況は懸念としてのしかかっていることだろう。まさにそうなのだ。もし、あなたがこの景気後退の影響を受けていないとしても、友人や隣人、家族の一員、あなたの周囲の誰かが影響を受けていることだろう。

 われわれの経済が危機にあることは、もう統計を聞かなくても分かっているはずだ。なぜなら、あなたが日々直面していることだからだ。眠れぬ夜の原因であり、覚めても気になる心配事だ。定年まで勤め上げようと思っていたのに、失ってしまった職。夢を懸けた事業は今、か細い糸につり下がっている。あなたの子どもは、大学の合格通知を封筒の中に戻さざるを得なかった。この景気後退の衝撃は本物であり、そこかしこにあるのだ。

 経済は衰退し、われわれの自信が揺らいだかもしれない。われわれは困難で不確かな時代に生きている。だが今夜、すべての国民に知っていてほしいことがある。

 【米国の再建】

 われわれは国を再建し、回復させる。米国はより強い国家としてよみがえる。

 この危機の深刻さが、この国の運命を決めるわけではない。われわれの問題に対する答えは、われわれの手の届くところにある。研究所や大学、農場や工場、事業主の創意や世界で最も勤勉な国民の誇りの中にこそ、答えは存在する。

 米国を人類史上最も強力な進歩と繁栄の力にしたこれらの資質を、われわれはまだ十分持っている。力を合わせ、直面する難題に大胆に立ち向かい、未来に対する責任を再び引き受けることが今、米国に求められている。

 もしわれわれが、われわれ自身に対して正直であるなら、政府として、そして国民として、あまりにも長期間にわたって、これらの責任を果たしてこなかったことを認めるだろう。誰かを非難したり、後ろを振り返るためにこんなことを言うわけではない。現在の状況にどのように立ち至ったかを理解することでしか、苦境を脱することはできないのだ。

 【危機の原因】

 われわれの経済は一夜にして衰退に向かったわけではない。問題のすべてが住宅市場の崩壊や株式市場の落ち込みとともに始まったわけでもない。

 われわれは、生き残りの鍵は新たなエネルギー源を見いだすことができるかどうかにかかっているということを何十年も前から知っていた。にもかかわらず、われわれは以前にも増して多量の石油を輸入している。医療費は毎年、ますます多額の貯蓄を食いつぶしている。それでも、われわれは改革を先送りし続けている。

 われわれの子どもたちはグローバル化する経済の中で、職を求めて競争することになるだろう。そのための備えができていない学校があまりにも多い。そして、これらすべての問題が解決されていないのに、われわれはかつてない規模で、個人として、そして政府を通じて支出を重ね、債務を増やしているのだ。

 言い換えれば、これまでは長期的な繁栄よりも目先の利益が優先されすぎた。われわれは次の支払い、次の四半期、あるいは次の選挙のことばかりを考え、その先のことを考えなかった。黒字は富裕層にさらに富を与える口実となり、将来に向けた投資はしなかった。

 【総決算の日】

 手っ取り早く利益を手にするために規制は骨抜きにされ、健全な市場は失われた。銀行や金融会社は悪質なローンを押し通し、人々は買えるはずがないと分かっていながら住宅を購入した。重大な議論や難しい決定は先送りされてきた。

 その総決算の日が来た。未来への責任を引き受ける時が来たのだ。

 経済再生だけではなく、永続的な繁栄の新たな礎を築くために、今こそ大胆かつ賢明に行動する時だ。われわれは、財政赤字削減という厳しい選択をする。それでも早期に雇用を創出し、融資を再開させ、経済を成長させるエネルギーや医療、教育などの分野に投資する時だ。それがわたしの経済政策であり、今夜、皆さんにお話ししたい。

 【雇用対策】

 雇用から始める。

 わたしは就任して直ちに議会に対してプレジデンツデー(二月十六日の祝日)までに、人々が仕事に戻り収入を得られるための大型景気対策法案を送るよう要請した。「大きな政府」を信じているからではない。われわれが受け継いだ巨大な負債を忘れてしまったからでもない。

 わたしが行動を求めたのは、そうしなければさらに多くの職が失われ、より多くの試練を生み出したかもしれないからだ。事実、行動しなければ今後何年にもわたる経済成長の鈍化を確実にし、長期の赤字を悪化させていたかもしれない。わたしが素早い行動を推し進めたのは、そのためだ。そして今夜、わたしは議会が結果を出したことに感謝し、大型景気対策法が成立したことを喜んでいる。

 今後二年間、この計画は三百五十万の雇用を守り、あるいは創出する。その90%以上は民間部門となる。道路や橋の再建、風力タービンやソーラーパネルの生産、ブロードバンド敷設や大量輸送機関を拡充する仕事だ。

 この計画によって、教師は職を失わずに子どもたちを教育することができる。介護従事者らは病気の人たちの世話を続けることができる。ミネアポリスの街角には今夜も五十七人の警察官が働いている。なぜならこの計画が、警察署が実施しようとしていた解雇を食い止めたからだ。

 この計画によって、米国の95%の勤労世帯が減税を受ける。この減税は四月一日以降の給料で確認できるだろう。

 この計画によって、授業料支払いに苦しむ家庭は大学四年間で二千五百ドルの減税を受ける。そして、この景気後退で職を失った米国人は拡充された失業保険や継続した医療保険を受け、嵐をしのげるだろう。

 【浪費を監視】

 わたしは、この議場にいる人や自宅で見ている人の中に、この計画がうまくいくかどうか懐疑的な人がいるのを知っている。わたしはそれを理解する。ここワシントンで、善意がいかに早く公約破りや無駄遣いに変わるかをわれわれは見てきた。これほどの規模の計画には、正しく遂行するための巨大な責任が伴う。

 だからこそ、バイデン副大統領に、困難で前例のない監督役を担うよう依頼したのだ。ジョー(バイデン副大統領)に口出しすることは誰もできないのだから。

 全閣僚と同様に、全国の市長、知事に対し、一ドルごとの支出についてわたしと米国民に説明する責任があると伝えてある。あらゆる浪費や不正を見つけ出すことができる有能で積極的な監督官を指名した。われわれは、「政府再生」と名付けた新たなウェブサイトを作った。そこでは、全国民が自分の税金がどのように、どこで使われているか確認することができる。

 【金融市場再生】

 われわれが取り組む再生計画(大型景気対策法)は米経済を軌道に戻すための最初の一歩だ。しかし、それは最初の一歩にすぎない。たとえこの計画を順調に実行できたとしても、金融システムを弱体化させてきた信用危機の解消なくして真の再生はありえないのだ。

 今夜、この問題についてわたしは平易かつ正直に話をしたい。全国民とその家族の暮らしに直接影響することだと知ってもらいたい。全土の銀行に貯蓄した資金が安全で、保険は保証されていると知ってほしい。金融システムは依然として信頼のおけるものだと分かってほしい。それは懸念材料ではないのだ。

 懸念すべきは、融資を再開しなければ、再生は始まる前から頓挫するということだ。

 ご存じの通り、資金の流れは経済の活力源である。融資を受ける能力はすなわち、住宅から車、大学教育に至るまで、あらゆるものを購入する際に、いかに資金を都合するかということを意味する。いかに商店が陳列棚に商品を仕入れ、農場が機材を購入し、企業が人件費をつくり出すかを意味する。

 しかし、あるべき資金の流れが止まってしまった。住宅ローン問題に端を発した不良債権が多くの銀行の帳簿上に流れ込んだ。負債が膨らみ、信用を失っていったことで、こうした銀行は現在、家庭や企業に融資をしたり、銀行間で資金を融通し合うことに消極的になっている。融資が途絶えると、家や車を買うことができなくなる。企業は人員削減の実行を強いられる。経済はさらに苦しみ、資金はさらに枯渇してしまう。

 【金融対策】

 こうした破滅的なサイクルを打破し、自信を取り戻し、融資を再開するために、われわれの政権は迅速かつ攻撃的に行動しているのだ。

 われわれはさまざまな方法で行動する。第一に、融資のための新しい基金をつくっている。この基金は、経済を動かしている消費者や事業主に対する自動車や教育融資のほか、中小企業を対象とした融資を支援するための最大の努力を象徴するものだ。

 次に、住宅対策にも着手した。持ち家を失う危機に直面する家庭の月々の住宅ローン返済額を軽減し、ローンの借り換えが可能になった。この計画は投機筋や、身の丈に合わない家を購入した隣人を助けるのではない。住宅の価値の減少にもがく多くの米国人を助けるのだ。彼らはこの計画によってもたらされた低金利を利用できる。ローンの借り換えで平均的な家庭が年間二千ドル近くを節約することが可能だ。

 第三に、米国人が頼みとする大手銀行がさらに厳しい状況に直面する事態となっても、融資のための十分な信頼と資金を得られるよう、われわれは連邦政府の全精力を傾ける。大手銀行が深刻な問題を抱えていることが分かったときは、銀行の責任を明らかにし、必要な修正を求め、バランスシートの適正化を支援し、力強く存続可能で、国民と経済に仕える強い組織の継続性を確保することができるだろう。

 銀行を無条件で救済し、無謀な決定について説明責任を問わない手法を取れば、ウォールストリート(金融機関)は安心だろう。しかし、それでは問題の解決にならない。われわれの目的は、国民と企業への融資を再開し、危機が終わる日を早めることにあるのだ。

 わたしはこれらの銀行に、受け取る支援についての説明責任を完全に果たさせるつもりだ。銀行は今回、税金が米国の納税者への融資により多く充てられることを明確に実証せねばならない。CEO(最高経営責任者)たちは今回、自分の給料を水増ししたり、ぜいたくな服を買ったり、自家用ジェット機に身を隠したりするために納税者の金を使うことはできないのだ。そんな時代は終わった。

 【財政赤字】

 ただ、この計画には連邦政府からの多額の財源が必要で、それは恐らくわれわれが既に割り当てた額よりも多くなるだろう。だが、行動のための費用がかさむ一方で、何もしないことの代償はさらに甚大になると確信を持って言える。何もしなければ経済は数カ月や数年でなく、恐らく十年間にわたって停滞することになる。それは財政赤字や企業、あなた方や次世代に、より悪い結果をもたらすだろう。わたしはそんなことをさせはしない。

 前政権が議会に対して、苦境にある銀行への支援を求めた際、前政権の不手際とその結果に、民主党員も共和党員も同じように激怒したことは分かっている。米国の納税者も同じだったし、わたしも同じだった。

 だから、誰もがある程度は銀行の間違った判断のため苦しんでいる時に、今すぐ銀行を助けることがいかに嫌われるかは、分かっている。約束しよう、わたしはよく分かっている。

 しかし、危機に際して怒りに任せた政権運営をしたり、時の政治に屈したりできないことも知っている。わたしの職務、われわれの職務は、問題を解決することだ。責務を負っていることを認識し、国を治めることだ。ウォールストリートの重役に報いるためには一銭も使うつもりはない。だが社員に給与を払えなくなった中小企業、貯金をしてきたのに住宅ローンを組めない家庭は何としてでも支援する。

 肝心なのは、この点だ。銀行を救済することではなく、人々を救済することだ。融資を再び受けられるようになれば、若者の家庭が新居を買えるようになる。どこかの会社がその家を建てるために労働者を雇う。労働者は現金を得て、ローンを組めれば、車を買ったり、事業を始めることもできるだろう。

 投資家は市場に戻り、米国の家庭は退職後も安心して余生を迎えられるようになるだろう。ゆっくりとだが確実に、信用は戻り経済は再生する。

 【改革の実行】

 従って、議会には、わたしとともに必要な政策を実行してほしい。終わりのない不況に国民を追いやってはならないからだ。そして、これほどの危機が二度と起こらないようにするため、時代遅れとなった規制を刷新するための立法を速やかに進めてほしい。金融市場で、やる気と革新性が報いられ、近道や不正が罰せられるようにするため、強力で、常識に基づいたルールを導入すべき時だ。

 再生計画、金融安定化策は、経済を短期的に立て直すために進めている当面の措置だ。だが、米国経済の強さを完全に取り戻すための唯一の道は、雇用、新しい産業、世界との新たな競争力につながる長期的な投資を行うことだ。今世紀を、再び米国の世紀にする唯一の道は、石油依存と高額の医療保険の代償に向き合えるかどうかだ。子どもたちは山のような負債を引き継ぐことになり、学校は子どもたちを教育できていない。これが、わたしたちの責務だ。

 近くわたしは議会に予算教書を提示する。われわれはしばしば、この教書を単なる紙の上の数字や長々とした計画リストと見なしてきた。わたしはこの教書を違う見方でとらえる。米国の展望であり、われわれの未来の青写真だ。

 わたしの予算案はすべての問題の解決を目指していないし、すべての問題を扱うわけでもない。一兆ドルの財政赤字や金融危機、犠牲の大きな景気後退など、われわれが(前政権から)引き継いだ厳しい現実を反映している。

 こうした現状では、民主党員であれ共和党員であれこの議場の誰しもが、予算が足りずに優先事項を犠牲にしなければならないことがあるだろう。わたしも同じだ。

 だからといって、われわれの長期的な課題を無視してもいいという意味ではない。わたしは、問題が自然に解決するという見方を認めない。われわれ共通の繁栄のための基盤を築くのに、政府の役割は一切ないという見方を認めない。

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200902260145.html