元一級建築士・
ホテル側代理人によると、一連の耐震強度偽装事件をめぐり、建築確認をした行政の責任を認めた初めての判決。同種訴訟に影響を与えそうだ。
判決理由で戸田裁判長は、建築確認をする自治体職員の建築主事について「建築士よりも深く検討し、適切な判断をなしえる立場。高い信頼を寄せて建築確認を申請する建築主に専門家として一定の注意義務を負うことがある」とした。
その上で、愛知県の建築主事は、十—二階の耐震壁が法令基準の四割程度しか耐震強度がないことを見逃したほか、ホテルの一階部分は主に柱だけで構成されている「ピロティ型」で、同型の建物は阪神大震災で被害が多かったと指摘。「建築主事は姉歯受刑者に問い合わせをするなどして真意を確認するべきだったのに怠った」として、建築確認に違法性があったと述べた。
総研や
建て替えの必要性については「補強工事で耐震強度を法令基準以上に高めることは可能だった」と否定し、損害額を補強工事費や休業補償費を含む約二億五千万円に限定。建設会社が弁済金としてホテル側に支払った約二億円などを差し引いて賠償額を算出した。
判決によると、ホテルは二〇〇一年、総研と契約を結んで指導を受け、県の建築確認を経て建設。〇二年に開業したが〇五年十一月、姉歯受刑者による構造計算書の偽造が判明し、〇六年二月に解体。〇七年四月に建て直したホテルで営業を再開した。
耐震強度偽装をめぐり、愛知県などに損害賠償を命じた二十四日の名古屋地裁判決の要旨は次の通り。
建築主は建築物の安全性に一義的な責任を負うが、通常は専門家でないため建築士の関与が不可欠。また建築士は建築主の特定の利益に配慮する必要がある。一方で県など自治体の建築主事は、公務員としてもっぱら基準との適合を検討すればよく、経験を蓄積できる立場でもあるから、危険な建築物を出現させない最後のとりでといえる。建築主事には高い信頼に応える一定の注意義務がある。
建築確認申請によると、このビジネスホテルは一階部分に耐震壁が一切無く、柱と梁だけで耐力を持たせる「ピロティ型」の建築物だった。ピロティ構造は、阪神大震災で大きな被害を招き、一般的に危険な構造として知られている。
構造計算上はすべて一枚の耐震壁としてモデル化しているが、これは専門家の常識に反する明らかに不適切なモデル化で、法令上必要な衝撃強度が確保できない危険な設計だ。耐震壁の評価に問題があることは通常の審査で当然把握できる。建築主事は少なくとも、こうした構造設計で安全性を保つ根拠を問い合わせるなどの調査をする注意義務があった。
十—二階の耐震壁が法令基準の四割程度しか耐震強度がなく、一階に耐震壁がない構造は設計指針に反し、一階の柱などの強度、剛性が不十分なこのホテルは技術的基準に反する。大災害の教訓が生んだ重要な注意事項に十分な留意が必要だが、建築主事は注意義務を怠った。国家賠償法上の違法性と過失がある。
一方、総研は建設業者への経営指導とビジネスホテルの開業指導に特化したコンサルタント会社との特色を売り物に、施工業者、設計業者と一体になって営業活動をしていた。こうした事情からすれば、設計業者を適切に選定、指導監督し、原告に不測の損害を与えないようにする注意義務があった。
だが総研は、原告を勧誘した際に示した構造体を、さらに危険性の増す構造体に変更させている。結果として必要な耐震強度を持たない危険な建築物が建設されており、総研の注意義務違反は明らかだ。
また総研所長は構造設計担当者を姉歯建築士に代えて構造体を変化させることを積極的に認めていた。基本的安全性が脅かされることは容易に予見できたはずなのに、安全性確保のための指導監督を怠った。
原告がこうした注意義務違反で損害を受けたのは明らかだが、ホテルの建て替えまで必要だったとはいえず、耐震補強工事で対処が可能だったとみられる。このため、補強工事に要する費用や総研に支払った経営指導料などを損害として認め、建設業者が原告に支払った弁済金二億円を差し引いた額を支払うよう命じる。