死者に化粧を施し、死出の衣装を着せて棺に納める——。一般にはなじみのない「納棺師」に心ならずも就いた主人公が、山形県庄内地方の四季の移ろいのなかで立ち直っていく過程を描いた映画「おくりびと」。
日本人の死生観を描いた映画の快挙に、葬儀の裏方に徹してきた納棺師からは「黒子の仕事が世界に評価された」という喜びの声があがった。
納棺師という職業が生まれたきっかけは、1954年、北海道で青函連絡船「洞爺丸」など5隻が沈没し、1430人の犠牲者を出した海難事故と言われる。当時、北海道で生花店を営んでいた遠山厚さんが、損傷が激しい遺体を一体ずつふき清めて遺族に引き渡した。遠山さんは69年、納棺を専門に行う株式会社「納棺協会」(札幌市)を設立した。
納棺師は、遺族の立ち会いの下で、遺体をふいて生前に好きだった衣装に着替えさせ、「死に化粧」をした後で棺に納めるまでが仕事。衣装のひもを結んだり、口紅をつけたりする時には遺族にも手伝ってもらうことが多い。
納棺協会の納棺師、堀江満さん(39)は、主演の本木さんらに約4か月間技術指導した。本木さんは一つ一つの手の動きにこだわり、遺族にどう見えるかを意識したという。堀江さんは、「“陰の仕事”を映画の題材にしていただいただけでも光栄なのに、受賞によって世界に広く知られることをありがたく思います」と笑顔を見せた。
「おくりびと」のロケは、酒田市の閉館した映画館など、ほとんど山形県内で行われた。脚本を担当した小山薫堂さん(44)は「チェロ奏者になる夢に破れた主人公が自然の中で浄化される過程を描くために、日本の原風景とも言える庄内地方は合っていた」。初めて庄内を訪れた時、庄内がハクチョウの越冬地と知って、「ハクチョウの越冬を挫折した主人公が立ち直る過程に重ね合わせた」と話す。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090224-OYT1T00092.htm