ソマリア沖で海賊が横行する中、船主との間の人質解放交渉を仲介し、襲撃の防止法を伝授する海賊対策ビジネスが英国でブームとなっている。その一社を訪ね、海賊の最新の手口などについて聞いた。
「今の身代金相場は、一隻あたり100万〜200万ドル(約1億〜2億円)」。南部プールにあるドラム・クサック社幹部のダレン・ディクソン氏はまずこう説明する。同社は、1992年創業の海賊対策コンサルタント会社。社員約100人の多くは英軍特殊部隊上がりで、ディクソン氏自身も海兵隊特殊部隊で26年間勤め上げた。
同氏は「会社が関与した具体例は明かせない。一般論なら」と断った上で、〈1〉海賊が狙った船をハイジャックするのに要する時間は15分〈2〉船を制圧下に置くと、無法海域のソマリアの領海に移動〈3〉英語や仏語に堪能な一味が船主に接触——などの手口を明らかにした。
海賊は、最初は1000万ドル台のケタが違う額を要求。解放条件をひんぱんに変え、交渉には3か月程度かかる。この間、海賊が占拠した船に飲み水、食べ物を届け、乗組員の安否を確認するのもコンサルタント会社の仕事という。
条件が折り合えば、身代金の搬送だが、「海賊は米ドルの現金一筋。100ドル札を嫌い、小額紙幣を好むのでかさばる」とディクソン氏。船かヘリコプターで、被害船にカネを運ぶが、「ヘリの場合、目指す船の甲板にきっちり落とすのが一苦労」と話す。ちなみに、同社が受け取る報酬も「ノーコメント」だった。
国際海事局(IMB)の調べでは、2008年には世界で293件の海賊による襲撃・未遂事件があり、うち92件はソマリア沖アデン湾に集中した。欧米諸国などが護衛のため艦艇などを派遣し、商船が船団を組んで航行するようになってからは、被害は減少傾向にあるものの、航行速度が遅いなどの理由から船団に加われない船もある。
ディクソン氏によれば、「こういった船を同時に3隻、襲撃し、SOSを受けた護衛艦が1隻の救出に向かっている間にほかの船を奪取して逃げるのが、海賊の最新の手口」だ。
同社では、人間の耳に不快な音波を大音量で発する装置の貸し出しや、乗組員の訓練など、海賊防止の講習会も行う。かつて、同業者は10社程度だったが、今や約30社に増え、競争は激化しているという。(英国南部プールで 大内佐紀、写真も)