かつての花街「荒木町」(新宿区)のとんかつ店で、3か月に1度開かれる寄席が人気を呼んでいる。高座は調理台の上に設置。街のにぎわいの灯を絶やさないようにと店主が続ける手作り寄席を、常連客らも準備を手伝って支えている。(奥村登)
四谷三丁目の交差点に近い荒木町車力門通りにある「とんかつ鈴新」。20日夜、かっぽう着からセーターに着替えた店主の鈴木洋一さん(62)と妻のさだ子さんが、ステンレス製の調理台を手早く片づけた。
「やろうか」。常連客の掛け声で、分厚い板を調理台上に固定。柿色の座布団を敷く。どんぶりが並ぶ背後の食器棚を布で覆い、高座が出来上がった。
店の近くで出番を待っていた、いずれも真打ちの落語家、三遊亭遊雀さん(44)と古今亭菊之丞さん(36)のもとへ鈴木さんが呼びに走った。
会社員ら男女約30人が入場料を払って入り、調理場奥から三遊亭遊雀さんが登場。枕で中川昭一前財務・金融相の辞任に触れ、「ろれつが回らなくて辞めなきゃならないなら、芸人は何人やめなきゃならないんだ」と笑わせる。出しものは「二番煎(せん)じ」。熱気で遊雀さんの額に汗がにじむ。
二番手の菊之丞さんは落語を終えると店外に出て、満足して帰路に就く客たちに頭を下げた。
鈴木さんによると、荒木町は明治から昭和にかけて花街として栄え、ピーク時には250人の芸者がいたという。地元に寄席があったこともあるという。昭和30年代ごろ飲食店街に姿を変えたが、バブル崩壊や、近所にあったフジテレビの本社移転などが影響して客足が落ちてきた。
鈴木さんは11年前に荒木町で寄席を開き始め、3年前、会場を自分の店に移した。寄席の最中に店の電話が鳴ったり、石焼き芋売りの車が店の近くを通ったりするハプニングもある。
菊之丞さんは「そば屋での落語は珍しくないが、とんかつ屋はここだけ。目の前にお客さんを見ながら落語できるのはいい」と気に入っている。鈴木さん夫妻は「以前、出てくれた落語家が真打ちになって戻って来るなど、うれしい経験も多い。お客さんが周辺の店でも飲食し、街の活性化につながれば」と話す。
次回は5月22日の予定。同店は荒木町10の28、(電)3341・0768。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/news/20090224-OYT8T00083.htm