ベトナム人の紙芝居作家ブイ・ドク・リエンさん(63)が23日、愛媛県今治市南大門町の市立今治小を訪れ、自らも従軍したベトナム戦争を題材にした代表作「象牙の櫛(くし)」などを披露した。
紙芝居は約20年前に日本からベトナムに伝わって新たな文化として普及が進み、リエンさんはその第一人者。リエンさんは自身の体験も踏まえて戦争の悲惨な現実を訴え、児童たちは真剣な表情で見入っていた。
ベトナムで歯の無償診療に取り組んでいる同市のNPO法人「東洋歯学友好会」(檜垣寛理事長)が主催。リエンさんは20日に来日し、27日に帰国するまで主に県内に滞在。これまでに同県松山、伊予市で上演しており、24日には伊予市立中山小で最後の上演を行う。
この日は低学年約50人と高学年約60人に分けて開催。リエンさんは低学年の児童に「ベトナム紙芝居の歴史に残る記念碑的作品」と評される「大切なうちわ」を披露。子どもが母親にもらったうちわを大金持ちから「欲しい」と言われ、牛など高価なものとの交換を断った末に、「元気になってお母さんに喜んでもらおう」と考えてご飯と交換する物語を、通訳を介し、児童と意見を交わしながら演じた。
一方、高学年の児童には、戦死した父親が生前に娘に「贈る」と約束していた象牙の櫛が、10年後に戦友を通じて娘の手に渡るというストーリーの「象牙の櫛」を演じ、「ともに世界平和を願っていきましょう」と呼びかけた。
6年の浮穴さゆみさん(12)は「遠い国から紙芝居をしに来てくれてうれしかった。平和の大切さがよく分かった」と話していた。
リエンさんは同国南部のホーチミン在住。ベトナム戦争では1965年から約10年間、南部のクチで米軍との激しい戦闘を生き抜いた。戦後は美術学校に復学し、児童書出版社で画家として活躍。91年に首都・ハノイで行われたイベントで紙芝居と出会い、「求めていた表現手段」と衝撃を受けて以来、創作や上演、後進育成に情熱を傾けている。ベトナムには現在、約30人の紙芝居作家がおり、これまでに約100作品が創作されているという。
リエンさんは「紙芝居は考えを誰にも分かりやすく伝えられる、日本文化の中でも特別に面白い存在。今後も頑張って活動していきたい」と意気込んでいる。(尾崎晃之)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090224-OYT1T00617.htm