硬貨を金属に衝突させた音で偽造を見破るという新たな鑑定法を、警視庁科学捜査研究所が開発した。
小さな滑り台の上で硬貨を滑らせるという簡単な方法で、顕微鏡やX線を利用した従来の方法が数分かかるのに対し、数秒で真がんを判別できるという。
硬貨偽造の技術が上がる中、同庁は、精巧な偽造硬貨が大量に出回った場合の捜査に威力を発揮すると新鑑定法に期待を寄せるとともに、「自動販売機などにも応用できる可能性がある」として、特許を出願した。
新鑑定法を考案したのは、警視庁科捜研文書鑑定科主事の鈴木基嗣(もとつぐ)さん(33)。大阪大大学院で応用物理学の博士号を取得し、2004年から同庁技官を務めている。
新鑑定法の仕組みは単純だ。長さ約30センチの滑り台に硬貨を滑らせ、台の下に置いた真ちゅうのブロックに衝突した時の音をマイクで拾う。
その振動数をコンピューターで解析すると、材質や製造時の圧縮方法などで硬さや密度が異なる本物と偽物では、振動数に違いが表れるという。
「チャリンと音を立てて硬貨が中に落ちる貯金箱のイメージからスタートした」と、発案のきっかけを語る鈴木さん。硬貨を衝突させる金属に何を選ぶか、どのような構造にすればいいか、試行錯誤した結果、約2年で完成にこぎ着けた。
科捜研に持ち込まれる偽造硬貨は民間では正確に真がんを識別しづらいものばかりで、これまでの鑑定は、顕微鏡による目視か、蛍光X線を利用した成分分析で行われていた。いずれも1枚3〜5分を要したが、新鑑定法では2〜3秒しかかからず、一度に数百枚の偽造硬貨が持ち込まれても短時間で鑑定結果が出るという。警視庁はこの方法をすでに導入しており、昨年は約100枚の硬貨偽造を見破った。その中には、硬貨を傾けると「500円」の文字が浮かび上がる「潜像模様」まで精巧に細工された500円の偽造硬貨も含まれている。
場所をとらず、音のみで真がんを判定できるため、同庁では、自動販売機や、金融機関で使われる簡易鑑定機にも応用できる可能性があるとして、昨年、特許を出願した。特許が認められれば、民間と連携して、一般でも広く活用できる簡易鑑定機などの開発に取り組むことも検討しているという。警察庁では「警察が独自に開発した技術を特許出願した例は聞いたことがない」としている。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090224-OYT1T00531.htm