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2009年02月23日(月) 00時00分

やっぱり人間は面白い読売新聞


撮影・中村光一
フジ系ドキュメンタリー「宮崎あおい、心にしみるアフリカ」のカメラマン 山崎 裕(やまざきゆたか)

 3月1日にフジテレビ系で放送される「宮崎あおい、心にしみるアフリカ」(午後4時5分から)で、女優がルワンダの人々とふれあう様子をカメラで追った。

 「こんな反応をあおいちゃんにしてほしいと狙って撮ることはしなかった」。15年前に大量虐殺が行われた教会を訪れ無言になった宮崎。現地の女性たちと楽しげに会話をする宮崎。その変化する表情を見逃さないようにした。「無理に何かを伝えなくてはという気負いがない姿を全面に出せた」と、日に焼けた顔をほころばせる。

 隣国のコンゴ民主共和国では内戦が続くが、コンゴに接する国境の町ギセニでは、人々がほのぼのとした生活を営んでいた。「周辺の町は、ニュースで流れるイメージと違って何の緊張感もなかった」という。先入観を持たず、談笑する人々や活気ある市場などありのままのルワンダを撮った。

 「主立った西部劇は全部見た」というほど映画好きの少年だった。父の趣味で8ミリカメラや映写機が家にあり、頻繁に上映会が開かれた。映像の世界に興味を持つのは自然の流れだった。

 映画監督を夢見た時期もあったが、「文系より理系の方が得意」と、高校1年で機械を扱うカメラマンを志した。その時は「アフリカにでも行って動物でも撮るのも悪くない」と漠然とした考えだった。

 転機は高校3年生の時。所属していた映画研究部と交流があった演劇部の顧問に「本当に面白いのは人間だぞ」と言われた。「ドキッとする一言で、頭から離れなかった」。ドキュメンタリーという目標が明確になった。

 日本大学芸術学部映画学科を卒業し、CM撮影や撮影助手をしながら腕を磨いた。戦争映画「上海」(1938年)の撮影などで有名な三木茂の助手をしていた20代半ば、「好奇心が消えないうちにカメラを回さなければダメだ」と三木に諭され、27歳からドキュメンタリー撮影に専念するようになった。

 手持ちカメラと長回しを多用する。表情の変化に瞬時に反応するためだが、「これが決定的瞬間だとカメラマンが勝手に選んでいいのか」との思いもある。

 対象と真摯(しんし)に向き合ってきたカメラワークが高い評価を得て、「印度漂流」(94年、文化庁芸術作品賞)、「なぜ隣人を殺したか〜ルワンダ虐殺と煽動(せんどう)ラジオ放送〜」(98年、イタリア賞グランプリ)などのドキュメンタリー作品で数々の賞を受賞。近年は、是枝裕和監督や河瀬直美監督などから請われて映画の撮影も手がけるようになり、活躍の場を広げている。

 「人の生きざまや内面をひょっとしてとらえたかもしれないという感覚が好き」

 68歳。人間の感情にどう寄り添って撮るかと考える姿勢は、いつになっても変わらない。「やっぱり先生の言ったように、人間は面白い」(森田睦)

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/tv/20090223et03.htm