静岡県焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」が1954年3月、ビキニ環礁近海で米国の水爆実験に遭遇した事件で、放射性降下物に被ばく、半年後に死亡した無線長、久保山愛吉さん=当時(40)=の死因をめぐり、米軍病理学研究所(AFIP、ワシントン)の所長が、解剖に立ち会った在日米軍の軍医に「組織を送ってほしい」と病理標本の入手を指示していたことが23日、米側文書で明らかになった。
総合研究大学院大の原爆資料調査に参加する高橋博子・広島市立大広島平和研究所講師(米国史)がAFIPの公文書館で文書を発見した。
組織の一部や解剖記録が54年末、極秘裏に日本から米国へ送られたことを裏付ける書簡や、解剖を見守る日本側医師団の写真も見つかった。
死因をめぐり、被ばくの影響を重視する日本側医師団が「放射能症」と発表する中、「輸血治療に伴う血清肝炎」とみる米側が放射能との関連を否定するため死因の独自調査に躍起となった内幕が浮かび上がった。
組織の一部が米国でひそかに病理標本とされた事実は既に判明しているが、送達の経緯が突き止められたのは初めて。