【モスクワ=酒井和人】経済危機が深刻化するロシアで、盤石とされていたメドベージェフ大統領(43)とプーチン首相(56)の「双頭体制」にほころびが見え始めている。背景に経済政策をめぐる相違があるとみられるが、若い大統領が自身の権力基盤を固め“プーチン離れ”を図っているとの見方も出ている。
「経済危機への(政府の)対応があまりに遅すぎる」。ロシアのメディアはほとんど報じていないが、ロイター通信によると、メドベージェフ大統領は二十日、ロシア・イルクーツクで開かれた国家評議会幹部会でこう述べた。名指しは避けたが、経済対策の最高責任者、プーチン首相への明らかな批判だ。
本来、大統領は、統制経済を推し進めてきた首相とは異なり、自由主義的な考えの持ち主とみられてきた。
昨年末、プーチン首相は自身が主導した輸入車の関税引き上げをめぐり、極東で起きた抗議デモを治安部隊を使って粉砕したが、このときも大統領は不快感を示したとされる。昨年五月の就任以来、首相の「操り人形」とやゆされることもあった大統領だが、不況がプーチン人気に影を落とす中、抑えてきた不満を吐き出した形だ。
こうした動きに関し、ロシア政治情報センターのムーヒン所長は「経済危機は大統領に地位を高める機会を与えている」と語る。同国の経済対策には政権寄りのオリガルヒ(新興財閥)などの思惑も複雑に絡み、政府の支援対象選定をめぐり「首相の支持勢力にも利害対立が生まれている」と指摘。中でも首相の掌握が不十分なのが地方だという。
大統領は先日、経済危機への対応の遅れを理由に四つの地方自治体の知事を解任した。国民への不況克服のアピールとともに自身の影響力を強化する意図もありそうだ。
ロシア金融当局は昨年までの原油高で一時は六千億ドル(約五十六兆円)に迫った外貨準備高を通貨ルーブルの買い支えに充て、既に三分の一以上を失った。今年は国内総生産(GDP)が大幅なマイナス成長となる予測もあり、経済の底は見えていない。不況のさらなる進展は、双頭体制に亀裂を生む危うさをはらんでいる。
(東京新聞)