「別の夫婦の体外受精卵を誤っておなかに戻してしまった可能性が高い」と医師に告げられ、二十代の女性が人工妊娠中絶した香川県立中央病院(高松市)の医療ミス。
中絶という重大な選択に直結するにもかかわらず、病院は、受精卵が本当に取り違えられたのかどうかを確認する手段について、女性側に十分な情報を提供していなかった。技術的、倫理的に難しい問題なのは確かだが、説明の不十分さを指摘する声も出ている。
「後で考えたら間違ったのではないかと。恐れがどんどん拡大し、夜も眠れなくなった」
担当した産婦人科の
医師は昨年九月、二十代女性の子宮に移植する体外受精卵を選ぶ際、作業台の上に残っていた別の患者の受精卵を誤って選んだとされる。女性の妊娠の経過が予想以上に順調なのを不審に思い、作業手順を検証した結果、取り違えた疑いが強いと判断したという。
妊娠ほぼ九週で説明を受けた女性は「百パーセント私の子ではないんですか」と涙を流した。だが、親子関係が確認できる可能性がある手段として病院側が説明したのは、妊娠十五週以降におなかに針を刺し羊水を取る羊水検査。だが、この場合には中絶の負担が大きくなることを説明。
一方で、技術的には難しいが一部の大学病院などで妊娠九—十一週に行われている、胎盤のもとになる組織を検査する「
日本産科婦人科学会の
中絶の後もDNAの検査などによるミスの検証はされなかった。その理由について川田医師は、技術的な難しさとともに「(仮に自分の子だった場合)ご本人にさらにショックを与える」のを懸念したと説明している。
これについてある産婦人科医は「告知するかどうかは難しいが、確認だけはしておくべきだった」と批判的。だが別の医師は「患者の心情への配慮が大切だ」として川田医師の対応を支持するなど、意見は分かれる。
今回の問題後、香川県立中央病院は、作業は複数で行うなどミス防止策を徹底したとしている。
だが米本教授は「精子や卵子、受精卵を体外で扱う以上、不妊治療で同様の事故の可能性を完全にゼロにはできない。最悪の事態が起きたらどうするかの対応策も、今後は検討するべきだ」と指摘している。