南極半島沿いの小島にあるウクライナのベルナツキー基地。カウンター越しに、気象観測担当の隊員が1杯3ドルの自家製ウオツカを差し出した。
観光客相手の商売は米ドルが基本。ウクライナの記念切手は1枚10ドルもする。商魂はかなりたくましい。
「ボンジュール、ハロー、こんにちは」。客船からゴムボートに分乗して乗りつけた観光客は、各国語で表記された看板の出迎えを受ける。「写真撮影はオーケー。でも観測機器にはさわらないで」。英語を話す隊員は、手慣れた調子で観測施設の中を案内した。
南極観光は活況を呈している。2006〜07年の観光シーズンに客船で南極を訪れた人は約3万人。過去10年で3倍にふくれあがった。客船が出るアルゼンチン最南端の町ウシュアイアは、ホテルや土産物店の建築ブームに沸いていた。
地元で旅行代理店を営むヤニナ・バレットさん(33)によると、航海の多くは10日前後。半島と周辺の島々をめぐり、上陸するコースが人気だ。ヤニナさんは「金融危機の余波で今季は少し減ったけど、前季の航海は完売だった」と説明した。
動物からは5メートル以上離れる。外来の動植物は持ち込まない——。自然が壊されないよう、観光業者たちはきめ細かい自主ルールを設ける。上陸地ではガイドが観光客の行動に目を光らせるが、実際にルールを守らせるのは至難の業だ。
半島北部のバリエントス島。観光客が降り立った浜辺は、ペンギンで埋め尽くされていた。警戒心が弱いペンギンは逃げるどころか、足もとにすり寄ってくる。「これじゃルールを守りようがないよ」。観光客の1人は戸惑った様子でつぶやいた。(連載「南極異景」4回目=科学部 佐藤淳)