交通事故で首から下が動かなくなった男性が、「生きる勇気を与えてくれたボクシングを多くの人に好きになってほしい」と、自らが魅力を感じた選手について家族や友人らに文章をつづってもらい、本にする企画を進めている。昨年7月に第1弾が出版され、3月に続編が予定されている。その中には、八王子市のジムに所属し、30歳で急逝したボクサーも取り上げられている。
企画したのは、作家の千代(ちよ)泰之さん(42)(豊島区在住)。千代さんは19歳の時、オートバイで帰宅途中に乗用車と衝突。首の骨を折り、車いす生活を余儀なくされた。
手の指は全く動かない。だが、腕を曲げられ、パソコンを使って手紙は書けた。「僕に残された道は作家だ」。文章力をつけようと本を読んで勉強し、2002年に障害者としての経験を描いたエッセー「やさしい風になれたら」(樹心社)を出した。
この作品を読んで感動したと言う若いボクサーからの誘いが、ボクシングと出合うきっかけ。03年4月、後楽園ホールに初めて行くと、「迫力に圧倒され、はまってしまった」。
父母の出身地で、当時住んでいた栃木県から同ホールに月5〜6回も足を運ぶようになった。交通費がもったいないと、06年9月に同ホールに近い現在の住まいに引っ越した。「今は年間で100日ぐらいは観戦に行く」と言う。
「命がけで戦っている選手を見て、僕も障害を理由に逃げてはいけないと思った。そこから人生が変わった」
選手たちの素顔が描かれた本は「一拳一会(いっけんいちえ)」(エベイユ)。ボクシング人気を高めたい一心で出版社に企画を売り込み、昨年7月に出版にこぎつけた。約2000部が売れ、専門誌で取り上げられるなど反響があり、出版社から続編の話を持ちかけられた。
続編には20人が登場する。その一人が、八王子市八日町の「中屋ボクシングジム」に所属していた村上潤二さん。日本、東洋太平洋の二つのベルトをかけた小堀佑介選手(WBAライト級の元王者)との一戦に敗れた約1か月後、急性心不全で他界した。30歳だった。
ボクシングフィットネスの指導を受けていた女性が「私の宝物」と題し、「本当に素朴で飾らない。何よりもボクシングに対してまっすぐで、謙虚な人でした」と描いている。
続編は3月12日、WBCフェザー級タイトル戦が予定されている後楽園ホールで先行販売される予定。千代さんは「本の中に登場する選手に興味を抱いたら、ぜひ会場に足を運んでほしい。そこでボクシングを好きになってもらえたらうれしい」と話している。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/news/20090221-OYT8T01079.htm