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2009年02月21日(土) 17時09分

キレる親急増…児童相談所の積極介入に反発読売新聞

 虐待を受けた児童の保護を巡り、児童相談所(児相)の職員が保護者から暴言や暴行を受けるケースが2006年度に全国で140件に上り、記録のある1998年度の5倍以上に増えたことが厚生労働省の外郭団体「こども未来財団」(東京都)の調査でわかった。

 暴力をふるわれたり刃物で切りつけられたりするケースも起きている。虐待家庭への立ち入り調査権など児相の権限が強化され、親とのトラブルが急増していることが背景にある。

 「何で家に帰せないのか」。昨年10月、佐賀県中央児相の相談室で虐待やネグレクト(育児放棄)を受けたとして施設に入所する中学3年女児の母親(40歳代)が児童福祉司など職員3人に声を荒らげた。

 女児が施設を退所するかどうかの相談中で、母親は「娘と一緒に暮らしたい」と申し出たが、女児が拒否。職員が「(女児の)意思を尊重したい」と伝えると、母親は突如、机やドアをたたいて怒りをあらわにし、職員に殴りかかろうとした。

 福島県中央児相では昨年3月、職員を包丁で切りつけた親が傷害容疑で現行犯逮捕された。北九州市子ども総合センターでも2006年10月、親が職員を壁に突き飛ばすなど暴行して公務執行妨害容疑で現行犯逮捕されており、事件になるケースも起きている。

 大阪府中央子ども家庭センターでは「子どもを返すまで帰らない」と深夜まで居座ったり、「子どもを返せ」などと電話やファクスで執拗(しつよう)に抗議したりしてくる事例があり、大分県中央児相の職員は「殺すぞ」と電話で脅迫された。

 調査は、同財団が06年度に全国191か所の児相を対象に行い、137の児相から回答があった。その結果、暴言67件、脅迫32件、自殺や自傷のほのめかし22件で前年度比19件増の計140件だった。暴力の件数は明らかにしていないが、現場では「保護者との摩擦がここ数年で増えている」(福岡県中央児相)といった声が多い。調査を担当した関西学院大の才村純教授(児童福祉学)が98年度に行った同様の調査では全体で25件だった。

 背景には、00年に施行された児童虐待防止法に、児相の虐待家庭への立ち入り調査権が盛り込まれたことがある。厚労省雇用均等・児童家庭局総務課は「以前は親が納得しないと保護を断念していた事例でも虐待死など最悪の事態を防ぐために積極的に介入しており、反作用として強い反発が起きている」と分析する。

 こうした親の暴力行為に対処するため、長崎こども・女性・障害者支援センター(児相)では07年、3本の刺股(さすまた)を配備。昨年、県警の暴力団担当職員が暴力的な保護者にふんして対処法を指導する研修も実施した。大阪府中央子ども家庭センターでは刺股のほか防刃チョッキもそろえている。

 ただ「過度な警備は気軽に相談に来られない雰囲気を招く」と指摘する声もある。才村教授は「警備強化では根本的解決にならない。話し合いで親を納得させられる職員の育成が急務だ」と話している。(川口知也)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090221-OYT1T00624.htm