昨年6月に起きた東京・秋葉原の無差別殺傷事件以降、先月末までの8か月間に、インターネット上の犯行予告に関する通報が警視庁だけで約2800件に上っていることが分かった。
ひと月あたりの通報は事件前の約3倍で、一時は8倍を超える月もあった。ネット上には面白半分に予告をあおるサイトも多数存在しており、逮捕された一人は読売新聞の取材に「気持ちがあおられ、ノリで書き込んだ」と語る。警察庁は「犯罪を助長する行為」と問題視しているが、排除するすべはないのが現状だ。
秋葉原事件から12日後の6月20日。東京都内の男性会社員(28)は、自宅のパソコンで様々なサイトを閲覧するうち、犯行予告を話題にした掲示板を見つけた。
「渋谷で大量殺人します。……とか書いたらヤバイだろ」「日本で大量数人(原文のまま)します。これはどう?」
そんなやり取りを読んでいるうちに、自身もキーボードをたたき始めた。
「よーし、パパ今から田端で大量殺戮(さつりく)しちゃうぞー。何を?」
その直後、掲示板に反応が殺到し始めた。「これはマズイ」「アウトだね」——。会社員の書き込みは犯行予告を集めた別のサイトに転載もされた。
偽計業務妨害容疑で警視庁に逮捕されたのは2か月後。取調官からは、東京・北区のJR田端駅周辺で10日間に延べ100人の警察官が警備に駆り出されたと知らされた。会社員は罰金50万円の略式命令を受けた。
「迷惑をかけたことは申し訳ない」。こう話しながらも、不満を漏らす。「書き込みを転載した人間も悪いし、通報した人間も面白半分じゃないか。どうして僕だけ逮捕されるのか」
犯行予告をテーマにしたサイトや掲示板は数年前から存在したが、目立って増え始めたのは秋葉原事件以降。「楽しく予告ができる」などとうたったサイトや、摘発を避けるため、検索エンジンで検出されないようを加工しているサイトもある。犯行予告を自動検索して掲載しているサイトを昨年6月に開設した男性(27)は、「悪質な予告は警察に通報し、事件を未然に防ぐ効果はあると思う」としながらも、「もし、書き込みを助長しているというなら、やり方を考えたい」と語った。
秋葉原事件後、先月末までに警視庁に寄せられた犯行予告の通報は2809件で、通報をもとに全国の警察は82人を摘発・補導。その3分の1は未成年で中には9歳の女児もいた。しかし、あおるサイトの摘発例はない。警察庁は「刑法の教唆に問える可能性はないわけではないが、具体的に、特定の人間をそそのかしていないと難しい」としている。
インターネットに詳しい川上善郎・成城大教授(社会心理学)の話「ネット上にも『表現の自由』があり、規制はあまり歓迎できない。仮に規制をしても別のサイトやツールに移るだけだろう。しかし、現状のままでは規制を求める声が強まる可能性は十分にあり、ネットユーザーには使い方への自覚が求められる」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090221-OYT1T00555.htm