千葉県外房沖上空で20日正午前、マニラ発成田行きノースウエスト航空2便(ボーイング747—400型機、乗客408人・乗員14人)が乱気流に遭遇し、乗客らが負傷した事故で、同機の機長らは乱気流で負傷者が出たことを知りながら、緊急事態として管制官に伝えていなかったことがわかった。
運輸安全委員会は航空事故調査官3人を成田空港に派遣。機長らの対応に問題がなかったか詳しく調べる。
成田市消防本部などによると、この事故で、フィリピン人や米国人の乗客ら43人が天井に頭をぶつけるなどして負傷。フィリピン人男性(68)が頸椎(けいつい)を骨折、同国人女性(60)は頸椎を損傷した。同航空によると、同機には日本人乗客が43人いたが、同市消防本部では日本人の負傷者は確認されていない。
国土交通省などによると、同空港では事故の直前、風向きが変わったとして着陸の進入方向を急きょ変更。このため同空港の管制官は午前11時53分、同機に上空での待機を指示。これを受けて同機は、空港の南約70キロ・メートル、高度約4600メートルの洋上を旋回しながら、着陸許可を待っていた。
同機が乱気流に遭ったのは、同59分に待機指示が解除されるまでの間とみられる。乗客らによると、シートベルトの着用サインの点灯直後に機体が大きく揺れたといい、けが人の多くは着用が間に合わずに座席から投げ出されたとみられる。
機長は乱気流遭遇後に緊急事態を伝えていなかったため、管制官は同機を緊急着陸させるなどの措置を講じなかった。また、同市消防本部によると、同航空側からは「頭を打って痛がっている乗客が1人いる」とだけ通報があり、救急車を1台出動させただけだった。隊員が機内を確認して初めて、けが人が多数いることを知ったという。
同航空によると、事故機の機長は着陸後、乱気流に遭遇したと同航空に報告していた。機長が管制官に乱気流で負傷者が出たことを伝えなかったことについて、同航空は「機長はけが人を数人程度と認識し、会社スタッフが車いすで運べば済むと考えたため」と説明している。
国交省成田空港事務所は「機長から緊急事態を伝えられていれば、救急車などの受け入れ態勢も後手にならずに済んだ」としている。
成田航空地方気象台によると、周辺は寒冷前線の通過で積乱雲が連なり、乱気流が発生しやすかった。当時、成田空港の管制官は、事故機を含む5機を周辺の上空で待機させていたが、ほかの4機からは乱気流の情報はなかったという。
日本航空はこの日午前10時頃、日本周辺では荒天のため機体の揺れが大きくなると予想し、日本を発着する全航空機に早めにシートベルトサインを点灯させるよう指示していた。
米国人の20歳代男性は「機長が成田の天気や高度のアナウンスをしていた時、突然、機体が大きく縦に揺れ、座っていた人や通路を歩いていた人が天井に頭をぶつけた」と証言。揺れは15秒ほど続き、機内は騒然となったという。
男性は「あちこちで悲鳴が上がり、血を流している人や、『ドクターはいないか』と助けを求める声が聞こえた」と興奮した口調だった。
別の米国人の男性(62)は「着陸態勢に入って間もなく、機体が一気に降下し、前に座っていた女性2人が浮き上がり、1人が天井に頭をぶつけた」と話した。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090220-OYT1T00639.htm