振り込め詐欺被害が後を絶たない。
警察が目を光らせていたヤミ金業者や暴力団とはかかわりがない“素人だけの集団”による犯行も出始め、昨年の被害額は前年比1割増の約276億円に上った。
仕事のない若者が、高収入の求人広告を見て集団に引き込まれる実態も浮かび上がり、警察庁は「犯罪のすそ野が一般人まで広がっている」と警戒を強めている。
熊本、宮崎両県警と北海道警の合同捜査本部が10日、詐欺容疑で逮捕した9人は、会社役員や飲食店員、無職の男女で、5人が20歳代、3人が30歳代。全員が暴力団との親交も犯罪歴もなかった。「電話アポの仕事」「学歴問わず」「正社員は月給20万〜30万円」などと記された携帯電話の求人サイトを見て集まり、東京都内の雑居ビルを拠点に活動する詐欺グループに加わったという。
グループは、〈1〉「複数の債務を抱える人に融資します」と書いたはがきを作成、郵送〈2〉「融資の保証金」名目で、電話で振り込みを要求〈3〉金を引き出す——の3班に役割を分担。実績に応じて1人月給30万〜100万円を配分し、勤務時間を管理するタイムカードもあったという。熊本県警幹部は「まるで会社組織。仕事が細分化され、一人ひとりの罪の意識は希薄。不況で職がない人が高給のアルバイト感覚で飛びついている」と話す。
捜査本部は、熊本市の女性(70)に融資話を持ちかけて約20万円を振り込ませた疑いで9人を逮捕したが、雑居ビルから約10万人分の名簿を押収しており、多数の余罪があるとみる。
捜査関係者によると、振り込め詐欺は、ヤミ金業者や暴力団員が借金を返済した人に直接、「完済していない」などと言って振り込ませたのが始まり。しかし、ここ数年は暴力団やヤミ金業者らが、一般人に詐欺のノウハウを教えて実行させるようになった。さらに、最近はノウハウを得た人が上納金を払うのを嫌って独立し、詐欺グループの構図が複雑化しているという。
警察庁によると、振り込め詐欺被害は2004年の2万5667件(被害額約283億円)をピークに、07年は1万7930件(同約251億円)にまで減少したが、昨年は2万481件と再び増加。07年に全国で摘発された約170の振り込め詐欺グループのうち、主犯格が逮捕されたのは約20にとどまり、実態解明は難航している。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090220-OYT1T00671.htm