香川県立中央病院(高松市)で昨年9月、不妊治療で体外受精した20歳代の女性が、別の患者の受精卵を移植された疑いがあるとして人工中絶した問題で、担当した川田清弥医師(61)が20日、読売新聞の取材に応じ、「日頃から1人で作業することが多かったため、(自分の経験を)過信してしまった」「安全面を軽視してしまった」などと述べ、複数での確認を怠るなどチェック体制の不備を認めた。
川田医師はこの日、「確実に本人のものとは言えない受精卵で妊娠させてしまい、大変申し訳ない。償いようのないミスだ。私1人が(受精卵の取り扱いを)していたことが、最大の過ちだった」と述べた。
川田医師は1993年から1人で体外受精の不妊治療を始めた。2002年に技師が加わり、現在、受精卵の取り扱いは川田医師と技師4人の5人体制で行っているが、技師は別の検査を掛け持ちすることも多いという。川田医師は「技師が休みの土日曜は、1人で受精卵の培養作業をしており、次第に平日も単独ですることが多くなった」とし、受精卵の培養や管理など多くの作業でチェック体制が整っていなかったことを明かした。
受精卵を取り違えたとされる昨年9月18日は平日。技師もいたが、川田医師が1人で作業していたといい、「技師らを使いこなせなかったことも含め、私の個人的な能力が欠如していた。責任を取らなければいけないと感じており、院長と話し合いたい」と述べた。
病院側は、日常的に単独で作業していたことを認識していた。松本祐蔵院長は「事故がなかったので、大丈夫という認識の甘さがあった」と話している。
川田医師は「ミスが重なった結果だが、具体的な理由は思い出せない。胚(はい)を発育させるという結果を追いかけ過ぎ、安全面を軽視してしまった。私1人でしていたことが、最大の過ちだった」と話した。
一方、同病院には体外受精を始めた当初から、受精卵の取り違えを防ぐ院内マニュアルはない。2000年に石川県内の医療機関で取り違えミスが発覚し、日本産科婦人科学会から受精卵を取り扱う際の識別・確認の徹底を求める通知が出ても、作成していなかった。
生殖医学などを研究する国際医療技術研究所(宇都宮市)の荒木重雄理事長は「各医療機関は識別方法などの細かなマニュアルを作り、国は外部監査体制を整えるべき」と話している。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090220-OYT1T00589.htm