香川県立中央病院(高松市)で昨秋、別の患者のものの可能性が高い受精卵を移植された20歳代の女性と夫は、妊娠を喜んだ1か月後、人工中絶という苦渋の決断をした。
「せっかく授かった命。自分たちの子どもなのか、調べる方法はないのか」と、病院に求めた夫婦は、検査が可能になる頃には、中絶ができなくなると告げられた。女性は手術を受けたその日、ただ涙を流したという。
19日、県庁で記者会見した同病院の松本祐蔵院長らによると、女性は1年近く県内の民間病院で不妊治療を続けていたが、結果が出ず、昨年4月から県立中央病院で体外受精などを始めた。「高度な治療が受けられる」と期待し、同10月7日に担当の男性医師(61)から妊娠の事実を伝えられると、ほほ笑んだ。
だが、状況は1か月で一変する。11月7日夕、担当医師と産婦人科主任部長が、別の患者の受精卵を戻した可能性が高いことを来院した夫婦に伝えた。女性はぼう然として言葉が出ない。夫は「あり得ないことだ」と言ったという。
この時点ではまだ、誰の受精卵か確かめられないと聞いた夫は翌日、産婦人科主任部長らに「何とか調べる方法はないのか」と尋ねた。返ってきたのは、「6週間後に羊水を検査すれば分かるが、その時点では中絶は不可能です」との答え。その場で女性は涙を流した。夫婦は中絶を決め、3日後に手術が行われた。女性は、検査で一度病院を訪れ、松本院長から謝罪を受けた後は来院していないという。
女性の夫は読売新聞の取材に対し、「残念なのは当たり前です。妻の状態も含めて、今の時点で私たちがすべてを明かすことはできません」と話した。
松本院長は記者会見で、「妊娠したという喜びの際、中絶という身体的にも精神的にも想像を絶するような負担をかけ、申し訳ない」と陳謝。今月10日に女性側が高松地裁に提訴し、訴状が18日夕に県に届いたことから、裁判で事実が公になると判断して、公表したと説明した。
同病院で人工授精を試みている30歳代の女性は「中絶しなければならなかった女性の悲しみを想像すると耐えられない。ミスが二度と起きないよう再発防止策をきちんとしてほしい」と訴えた。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090219-OYT1T01045.htm