「賃上げこそ最大の景気対策」という労働側の要求は、もはや現実的ではない。今春闘で経営側と徹底協議すべきは、雇用危機の打開策だ。
トヨタ自動車やホンダの労働組合が、組合員平均で月額4000円の賃金引き上げを会社側に要求した。日立製作所など電機大手の労組は、統一して月額4500円の賃上げを求めた。
昨年の要求額は、トヨタ1500円、ホンダ1000円、電機大手2000円だ。しかも満額回答は得られなかった。今年は景気が急変したというのに、要求額は大幅アップという選択である。
これに対し、経営側は「賃上げは論外」と、一歩も譲る気配はない。それもそうだろう。
代表的な輸出産業である自動車と電機は、世界不況の影響で大幅減産を余儀なくされ、今3月期は多くの企業が赤字決算となる。管理職の賃金カットが広がり、一般従業員の賃金カットに踏み込む企業も出始めた。
労組があくまでも賃上げにこだわり、その結果、一段と経営が悪化して大リストラに追い込まれては、元も子もない。
上部団体の連合が2008年度の物価上昇を根拠に、8年ぶりにベースアップ要求の大方針を掲げたのだが、デフレ懸念が強まり、その根拠が薄れてきた。
物価を絶対視すると、デフレ局面では賃下げ提案しなければならない、と連合方針を疑問視する労組もある。一理ある指摘だ。
消費の拡大を促すには賃金も重要なのだが、このままでは交渉は全くかみ合わない恐れがある。この非常時に、労使が対立している場合ではないだろう。
派遣社員など非正規社員の契約解除にとどまらず、正社員にも雇用削減の波が及んできた。労組としても、まずは雇用不安の解消に優先的に取り組むべきだ。
経営側は当面の事業計画や雇用の見通しを示し、労組の理解を得る必要がある。雇用を守り、さらに雇用を創出していくために、新規事業や技術開発に知恵を絞らなければならない。
来春の新規採用を抑制する動きも顕著になってきた。就職活動を始めた大学3年生の中には、就職氷河期の再来を実感している人も多いのではないか。
こうした若者への影響を極力抑えるためにも、労使一体で、一刻も早く経営に明るさを取り戻す努力を続けてほしい。景気対策、雇用対策による政府の強力な後押しも、極めて重要である。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090219-OYT1T01123.htm