「同一の場所で二組以上の受精卵を取り扱わないことは、体外受精を行う上で基本動作だ。どのような経緯で事故が起きたのか…」(日本生殖医学会倫理委員長の
体外受精など高度な技術の実施が増加の一途をたどる中、安全対策には施設でばらつきがあるとされており、管理体制構築の遅れが重大なミスを招いたとの指摘が出ている。
体外受精は第一例が一九八三年に生まれて以降急激に増加し、日本産科婦人科学会の調べでは、新生児の六十人に一人以上を占めるまでになった。
同学会は会員に向け、体外受精実施に当たっては受精卵の識別や確認、管理などを厳重に行うよう通知しているが、施設ごとの体制に関しては書面審査のみ。
「不妊治療施設は本来、専門の培養士を置いて受精卵などの管理に専念させるべきだ」と話すのは、都内のある不妊治療専門医。だがこの医師によると、多くの公立、大学病院は人手不足の上、培養士という新たな職種への無理解などから必要な態勢を組めず、受精卵の管理も不妊治療の担当医が行っているケースが多いという。
「中絶した女性のことを考えると言葉もない。この事故を医師個人や一施設の問題としてはならない」と話すのは、年間の採卵数が千二百件近い「蔵本ウイメンズクリニック」(福岡市)の
福田さんは「一つの作業では一人の患者の検体だけを取り扱うことや、ダブルチェックの徹底など、取り違えを防ぐための指針をつくり、生殖医療の実施施設全体で共有する必要がある」と指摘している。