南極大陸から南米に突き出す南極半島で急速な温暖化が進んでいる。生命に満ちた真夏の半島と周辺の島々。そこではペンギンが生暖かい雨に打たれていた。
半島西岸に連なる南シェトランド諸島のロバート島。アルゼンチン発の客船で9日に訪れた営巣地では、1000羽のヒゲペンギンが泥まみれで暮らしていた。
波打ち際にはゾウアザラシの群れ。丘の斜面は緑の草で覆われ、ヒゲペンギンのヒナの甲高い声が響く。気温14度。防寒着を着込んだ体に汗がにじんだ。
ヒゲペンギンは毎年11〜12月に卵を産み、1月にヒナがかえる。巣立つまで親鳥の口移しで大量のオキアミを食べる。
ひと組の親子が目に留まった。ときおり降る雨のなか、ヒナは必死に親を追うが、ぬかるんでうまく走れない。親を見失い、途方に暮れたように天を仰いだ。
地球の年平均気温は過去100年で0・74度上がったが、南極半島は60年で3度。国立極地研究所の高橋晃周准教授によると、ロバート島に近い別の島では、ヒゲペンギンやアデリーペンギンが過去30年で半減。原因として温暖化に伴う氷の減少が指摘されている。
海に浮かぶ氷の底はオキアミが食べる藻類の宝庫。「氷の減少で藻が減り、それを食べるオキアミも減る。その結果、オキアミを食べるペンギンの生存率も低下した」という仮説だ。
水をはじく機能がある毛に生え替わる前のヒナが雨に打たれ、夜間に体温を奪われて凍りつく可能性も指摘される。1950年代以降、半島の年間降水日数は10年ごとに12日ずつ増えている。
ロバート島に近いバリエントス島で雨は本降りになった。泥まみれのヒゲペンギンのヒナが寒さに震えていた。仲間につつかれても1、2歩よけるのがやっと。近くでトウゾクカモメがペンギンの死骸(しがい)をむさぼっていた。(連載「南極異景」1回目=南極半島で、科学部 佐藤淳)