大学の女性研究者に、働きやすい環境を整えようという“追い風”が吹いている。大学がキャンパスに保育室を作ったり、研究を補助するアシスタントを用意したり。女性研究者自身も仲間作りや情報交換を行い、互いに連携することが大切なようだ。(榊原智子)
「5年前、妊娠がわかった時はやっていけるか不安だったけれど、教授や部局長に報告すると『おめでとう』と言われて勇気づけられました」
千葉市にある千葉大学薬学部の准教授、小林カオルさん(39)は、長男(4)を出産して育児休暇を取った。その後、以前と同じように自身の研究や学生の指導、研究室の運営にあたってきた。妊娠時の心境を振り返り、「周りのサポートと理解があれば続けられることがわかった」と話す。
同大薬学部の教員約60人に占める女性の割合は、2006年度の16%から現在の22%に上がった。ただし子どものいる女性は2人だけ。こうした状況を変えようと、大学は3年前に本部キャンパスに学内保育室を開設し、夜間に働く研究者に配慮して午後10時までの延長保育も用意した。授乳や搾乳にも使える女性専用休憩室も設けた。
さらに昨年は、小林さんら4人の女性研究者を補助する「支援要員」の配置を始めた。両立支援企画室長の森恵美さんは「支援要員を初めて実施した昨年は、研究で成果を上げる人が出るなど実績があった。大学の底力を上げていくためにも女性研究者の支援は重要になっている」と言う。
東京都新宿区にある早稲田大学も3年前から女性研究者支援に乗り出している。「キャリア初期研究者両立サポートセンター」を昨年発足させ、若手研究者の育児相談や交流会を実施。くつろげる畳のスペースや授乳室も設けた。
同大社会科学部の専任講師の横野恵さん(34)は、07年秋に長女(1)を出産し、1年後に仕事に復帰した。生命倫理などの医事法学が専門で仕事にやりがいはあるが、「子どもを持って研究を続ける女性の先輩が周囲に少なく、復職してうまくやっていけるか不安があった」と話す。
しかし、サポートセンターができて、子育て中の教職員が意見交換したり、両立支援の情報を得たりできるように。大学が応援しているという追い風を感じた。「復帰後に担当する講義のコマ数を減らせるとわかり、ほかの学部の状況も把握できた。困った時に相談できる先がわかったのも大きい」と横野さん。
同大でも、教授以外の教員に占める女性の割合は、1998年の14%から08年の20%に上昇した。同大の男女共同参画推進室は「育児や介護といったライフイベントで辞めてしまい、女性教員の割合が上がらなかった。大学が発展していくためにも活躍する女性が増えてほしい」と言う。
女性研究者支援に詳しい慶応大学特別研究准教授の島桜子さんは「研究職の人は独立独歩の考えが強く、問題に直面しても一人で解決しようとする傾向がある。しかし、大学は生活の場でもあり、課題を共有することで打破できることもある。そうしたネットワークを大切にすることも女性研究者が活躍していくために欠かせない」と話している。
研究活動の断念に追い込まれないためのポイント(島桜子さんのアドバイスを基に)
▽悩んだ時に1人で結論を出すのは避けよう。いい情報や知恵を持つ人がいる可能性がある。
▽女性仲間のネットワークを作り、体験を共有しよう。個人的体験のなかにも共通の悩みなどが見つかる。
▽何人かに共通の課題であれば、大学側に伝え、改善を働きかけよう。
▽成功も失敗も自分の体験を後続世代にオープンにして、参考になるよう提供していこう。
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/mixnews/20090219ok08.htm