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2009年02月19日(木) 03時01分

「麻生降ろし」自民党内で公然と、中川財務相辞任から一夜読売新聞

 中川昭一前財務・金融相の辞任から一夜明けた18日、自民党では「麻生降ろし」が公然と語られ始めた。

 後藤田正純衆院議員は同日午前、党本部で記者団に、「首相には危機管理能力、信頼、誠実さがすでになくなっている」と語り、首相退陣を要求した。

 夜には、棚橋泰文・元科学技術相や世耕弘成参院議員、平将明衆院議員ら中堅・若手議員約10人が都内で開いた会合で、「麻生首相は交代すべきだ」などの意見が相次いだ。篠田陽介衆院議員は会合後、「今の体たらくに、ストレスがたまって爆発しそうだ」と記者団に不満をぶちまけた。

 2009年度予算の年度内成立を最優先する執行部は当面、麻生政権を擁護する姿勢を示している。しかし、参院幹部が「これからは首相交代に伴うゴタゴタより、メリットの方が大きくなる」と述べるなど、4月末にも09年度予算の関連法が成立すれば、首相退陣を求める動きが強まる可能性が出てきている。

 「首相の下で衆院選は戦えない」という危機感が、中川氏の辞任劇を機に党全体を覆いつつある。

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 麻生政権の失態が続く中、自民党では麻生離れが進み、「嫌麻生」とも言うべき空気が漂い始めている。

 ◆「次の顔」探し

 選挙を控えた自民党衆院議員の今の悩みは、「誰と一緒にポスターに写るか」だ。首相とのツーショットが一般的だが、不人気の首相と一緒だと「票が逃げる」という。

 南関東の当選1回の議員は「無党派層に知名度が高い舛添厚生労働相にお願いした」と語る。悩んだ揚げ句、地元の知事に頼んだ議員もいる。首相に近い東京都選出議員は、「7月に都議選があるから、都議と並んで撮影する」という。

 加藤紘一・元幹事長は18日収録の朝日ニュースターの番組で、「1週間に数百軒を訪ねて『少し盛り返したかな』と思うと、(首相の失言などで)潮を引いたようになるから、やるせない思いだ」と語った。

 麻生内閣の支持率が下降の一途をたどる中、「麻生離れ」という漠然とした雰囲気は、首相に対する明確な嫌悪感に転じている。2009年度予算案の審議中でもあり、直ちに「反麻生」の行動には結びついていないが、衆院選が近づくに連れ、「麻生降ろし」に発展するのは間違いない。首相に批判的な議員が口にする、「景気への影響を避けるため、09年度予算成立までは動かない」という言葉は、「予算後には退陣を求める」という思いの裏返しだ。

 麻生首相の自民党総裁任期は9月末までだ。「反麻生」陣営は、首相の辞任によって事実上前倒しする形で臨時の総裁選を実施し、「新たな顔」で衆院選に臨むシナリオを描く。

 党内では早くも、ポスト麻生の名前が取りざたされている。後藤田正純衆院議員は「世代交代という意味で、石破農相や野田消費者相。新たな国づくり、種まきという構想力は与謝野財務・金融・経済財政相」と語った。舛添氏や石原伸晃幹事長代理らの名前も挙がる。

 ◆中川秀氏攻勢

 安倍元首相、福田前首相が約1年で退陣した経緯から、麻生首相を交代させれば、「『政権たらい回し』と世論の批判を浴びる」と懸念する向きもある。それでも、「麻生氏の下で選挙をやるよりましだ」という声は確実に増えている。

 反麻生の急先鋒(せんぽう)である中川秀直・元幹事長は、月内にも議員連盟を発足させる予定だ。テーマは「政治の信頼と責任」という。「反麻生」の受け皿を狙っていると見られる。

 中川氏は18日、都内で自民党町村派の議員と会い、「もう麻生さんじゃ厳しい。麻生さんは引きずり下ろそうとしても辞めない性格だが、5月には党内から動きが出るかもしれない」と語ったという。

 ◆補正で「延命」

 首相周辺や党執行部の危機感は強い。河村官房長官は18日の記者会見で、後藤田氏らの動きについて、「元気があっていいが、今がどういう時なのかを考えていただきたい」と不快感をにじませた。首相や周辺は、09年度予算の成立後に新たな政治課題を設定し、求心力を回復しようとしている。最大の武器は、09年度補正予算の編成だ。

 09年度予算案の衆院通過後、首相が補正を念頭に、追加景気対策の策定を与党に指示し、4月2日のロンドンでの金融サミットまでに策定し国際公約にする。4月中旬に補正予算案として国会に提出する——。

 首相に近い自民党幹部は、こんな戦略を描く。

 6月3日までの通常国会を乗り切れば、主要国首脳会議(サミット)はすぐそこだ。中曽根元首相は、予算成立後、内閣改造に踏み切ることを提案している。政権のテコ入れが狙いだ。

 しかし、こうした反転攻勢を仕掛けるだけの「体力」が政権に残されているのか。仮に実現しても、支持率が回復するかどうかはわからない。1けたまで落ちこめば、「麻生降ろしの激流にのみ込まれる」という見方が強まっている。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090219-OYT1T00039.htm