先月末で休館した「パレスホテル」(千代田区丸の内)で、1961年の開業以来、ロビーの「顔」として宿泊客らに親しまれてきた世界時計。老朽化のため、2012年に再オープンする館内には設置されず、廃棄が検討されていたが、ドイツ・ミュンヘンの企業に引き取られることが決まった。愛着を持ってきた職員たちは胸をなで下ろしている。(金杉康政)
時計は、地球表面が断裂された図法による世界地図の形をした板に、ニューヨークやロンドンなど世界33都市の位置が示されていた。メーカーなどは不明だが、2階の分電施設内に心臓部がある電子時計をもとに、東京や各大陸を代表する11都市の時刻がデジタル電光板で表示される。
開業当時では画期的なもので、1階ロビーのクローク脇の壁に掲げられていた。国内外のビジネスマンのほか、レストランの客などが待ち合わせ場所として利用していた。
「電光板の数字を見て自宅の家族に思いをはせる外国人の方や、お見合いのため時計の前で初めて顔を合わせ、真っ赤になっている男女など、様々な顔が思い出されます」と、顧客担当の藤田康二参与は振り返る。佐藤武信・広報室長も「就職活動シーズンは、先輩と待ち合わせる学生で、時計の下がいっぱいになった」と懐かしがる。
ここ数年は老朽化が激しく、補修しようにも部品探しから始めなければならない状況に。先月末のホテル休館で、廃棄の方向で検討されていた。
ところが、休館直前、ミュンヘンにある特許事務所の経営者から「引き取りたい」と申し出があった。ドイツに進出している多くの日本企業と取引しており、40年近く前から、職員が日本に出張する際は必ず同ホテルを利用。ロビーの世界時計もなじみの存在だったという。
ホテル側は「きっと時計を大事にしてくれるはず」と、輸送費等以外は無償で譲ることを決めた。贈られた時計は、経営者の執務室に掲げられる予定だという。
「職員にとってこの時計は、何十年にもわたりお客様を見守ってきた同志。“第二の人生”が決まって本当に安心した」。藤田参与はしみじみ語った。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/news/20090218-OYT8T00090.htm