ショウジョウバエの脳内で、記憶を作るのに不可欠とされる酵素の働きを半分程度に弱めた方が、記憶が長続きすることが、都神経科学総合研究所(府中市)の実験でわかった。この酵素は人間にもあり、活性度を上げるほど記憶力が高まるとされていた。
年をとって物忘れがひどくなるのは、脳が衰えるからとされてきたが、同研究所は「酵素が関与した物忘れのメカニズムがあるとみられる。アルツハイマーなど記憶障害の治療方法の開発につながる可能性がある」としている。
実験は、研究所の斉藤実研究員と首都大学東京大学院理工学研究科の堀内純二郎准教授が共同で行った。
この酵素は、「プロテインキナーゼA」(PKA)で、脳内に記憶の回路を作るとされる。実験では、遺伝子を人工的に傷つけてPKAの働きを20〜70%に抑えたハエに2種類のにおいをかがせ、一方の時に電気ショックを与え、次に二つのにおいをかがせた時、どちらに行くかを、1時間ごとに調べた。
その結果、PKAの働きを50、60%にしたハエは、100匹中約60匹が、7時間後もショックなしのにおいに集まった。一方、PKAを操作していない活性化度100%のハエは約20匹しか集まらなかった。
斉藤さんは、「酵素の活性化度が高いと、記憶を壊すたんぱく質まで活性させてしまうのではないか」と推測、メカニズムを解明したいとしている。
実験結果は昨年12月、米国科学アカデミー紀要電子版に発表された。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/news/20090217-OYT8T01146.htm