先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)後の記者会見での失態に端を発した中川財務・金融相の辞任騒動で、麻生政権の経済運営に対する信頼は深く傷ついた。
急激な景気悪化が進む中で、2009年度予算の成立や追加景気対策の策定などでの迅速な対応が求められている。だが、野党が一段と攻勢を強めることが必至な上に、与謝野経済財政相が1人で経済3閣僚の仕事を担う無理な体制にも不安が伴う。
中川氏の辞任について政府内には「これでG7での失態を追及する動きが収まり、国会での予算審議が前進する」(財務省幹部)との見方が出ている。経済界からも「経済をこれ以上悪化させないため予算を確実に通す。そうした中での辞任は、妥当な判断、必要な判断だった」(経済同友会の桜井正光代表幹事)との声が聞かれた。
とはいえ、経済危機の克服を最重要課題に掲げる政権の前途は依然険しい。野党の対決姿勢がこれで弱まるとは限らない。むしろ中川氏辞任の余勢を駆って、より厳しい態度で国会に臨む公算が大きい。予算案と関連法案の審議が難航する可能性は高い。
また、予算審議が滞れば追加景気対策の取りまとめも遅れる。国内総生産(GDP)の急速な落ち込みなどに対応する新たな対策の策定は一刻の猶予も許されない。企業の資金需要が高まる年度末を控え、中小企業向け融資の積極化など、金融行政上の課題も山積している。辞任騒動の“後遺症”で対応が後手に回れば日本経済の傷はより深まる恐れがある。
国際社会での信頼回復も難題だ。辞任騒動は多くの海外メディアが報じ、「日本の経済運営には緊張感が欠けるとの見方が海外で広がってしまった」(日銀幹部)との指摘もある。
麻生政権はこれまで、国際通貨基金(IMF)の資金繰り支援策を他国に先駆けて表明するなど、国際金融市場の安定に積極的な姿勢をアピールしてきた。3月に20か国の先進国と新興国によるG20財務相会合、4月にはG20の首脳による「金融サミット」が予定されている。日本が当面、こうした国際金融会議でリーダーシップを発揮することは難しそうだ。
さらに、与謝野経財相が財務・金融相を兼務することについても、「与謝野氏は経済通だが、経済閣僚3人分の仕事を1人で担うのは重荷だ」(金融庁幹部)との声がある。市場からも「日本の景気悪化は先が見えない。早急に適切な後任者を選び、空白が生じないようにしなければならない」(熊野英生・第一生命経済研究所主席エコノミスト)との指摘も出ている。(栗林喜高、森田将孝)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090217-OYT1T00877.htm