北九州市が16日発表した5172億円の2009年度一般会計当初予算案は、深刻な景気後退への対応を最優先に編成され、5年ぶりに前年度当初比2・6%増の積極型予算となった。しかし、財政事情は厳しさを増しており、特別会計と企業会計はいずれも前年度よりマイナスで、3会計全体では0・3%増にとどまった。市は09年度から5年間で250億円をひねり出す行財政改革に取り組むことにしており、景気対策へ向けた財政出動と財政再建の両立という、困難な課題に直面する。北橋健治市長は記者会見で「財政上の制約はあるが、緊急経済対策はしっかりやりたい」と強調した。
【歳入】 景気後退の影響で、市税の落ち込みは過去最大の前年度比73億円(4・3%)となる見通し。特に落ち込みが激しいのは法人市民税(26・7%減)と、市内に搬入される産業廃棄物にかかる環境未来税(30・8%減)。税収全体の44・5%を占める固定資産税は地価下落が響き、11億円(1・5%)の減収を見込む。
財源不足を補うため、借金に当たる市債発行を13・8%増やし、歳入全体に占める割合(市債依存度)は9・6%と4年ぶりに上昇に転じた。国が後年度に地方交付税措置で返済を肩代わりする臨時財政対策債を145億円(54・3%増)計上。団塊世代職員の大量退職を受け、退職手当債も47億円計上している。
また、財源調整用の3基金(貯金)から総額203億円を取り崩す。3基金の残高は計288億円になる見通しで、2007年度末の467億円から179億円減った。
地方交付税は11・3%増え、9年ぶりに増額された。
【歳出】 景気対策を最優先に、北橋健治市長が重視する「子育て支援」「安全・安心確立」「環境」分野へも重点的に配分した。とりわけ環境分野は、重点配分によって雇用拡大を図る「グリーン・ニューディール」を強く意識した編成となった。
公共事業と中小企業への融資を柱とする景気対策には1373億円を計上。08年度補正を合わせた総額1652億円の「緊急経済・雇用対策15か月予算」として運用し、切れ目ない対策を打つ構えだ。
このうち20億円を省エネ設備導入企業への融資など、環境分野に投入。景気対策以外でも、低炭素型の都市基盤整備や産業構造転換などに33億円を計上し、08年に政府認定を受けた「環境モデル都市」としての取り組みに本格着手する。
子育て支援では、小学校低学年向け放課後児童クラブ(学童保育)拡充に16億円、中学校完全給食実施に9億円を予算化。安全・安心確立へ向けては、公共工事現場に監視カメラを設置する防犯対策に800万円、消防ヘリコプター更新に14億円を盛り込むなどした。
一方、借金返済に充てる公債費や生活保護費などの義務的経費がかさみ、政策的経費に回すお金が少なくなる「財政の硬直化」が進んでいる。義務的経費が歳出全体に占める割合は、過去20年間で最高の46・4%に達した。
公債費は市西部の学術研究都市や、八幡東区の市立自然史・歴史博物館(いのちのたび博物館)建設などの大型公共事業に使った借金の返済がピークを迎え、3・5%増えた。
生活保護費は景気後退を受けて2年連続で増加し、356億円(10・2%増)を計上。伸び率は第1次石油危機(1973年)後の不況時に並んだ。
【財政の健全化】
財政規模に対する借金返済の割合を示す「実質公債費比率」は9・8%。起債に国の許可が必要になる基準の18%を大きく下回り、健全性は維持している。借金せずにその年の政策的経費を賄えているかどうかを示す一般会計の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、254億円の黒字となる見通しだ。
新年度は、13年度までの5年間で総額250億円をひねり出す財政再建計画「市経営プラン」の実施初年度。当初予算案には市有地売却や広告収入増、職員削減などによる、総額102億円の収支改善見通しを織り込んでいる。
プランの成否は景気の動向に左右されそうだ。プランは投資的経費の前年度比7%削減を目標としており、当初予算案はこれに沿って6・6%減額したが、補正と連動した景気対策「15か月予算」と比較すると、逆に6・7%増える。不況の長期化で財政出動圧力が強まれば、プランの内容が見直される可能性もある。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukuoka/news/20090216-OYT8T01126.htm