16日に来日したヒラリー・クリントン米国務長官は、人権派弁護士からファーストレディー、上院議員と社会的立場を変えながら、仕事への積極的な取り組み、そして、“敵”に対する戦闘的な姿勢は一貫していた。
それが、長官就任後は、対人関係や執務スタイルで「チェンジ(変革)」を打ち出しており、日本でもこれまでのイメージと違う、ソフトな一面を見せてくれそうだ。(東京で ワシントン特派員・本間圭一、小川聡)
「話すと同時に聞くことが大切だ」
クリントン氏は15日、東京に向かう機中で、アジア歴訪に臨む基本姿勢をこう表現した。日本をはじめ4か国での外相会談などの場で、「聞き役」に徹する意図を表明したものだ。
こうした低姿勢は、長官に就任後、目立ち始めた。1月30日、シュルツ元国務長官を国務省に招いた際には、「アドバイスをお願いしたい」と謙虚に話しかけた。2月4日には職員との対話集会を開き、「大統領選に出たことなんて、すっかり忘れたわ」と冗談を飛ばし、張りつめた空気を和らげた。
昨年、大統領候補だったクリントン氏の言動は、対照的だった。
「恥を知れ、オバマ」。昨年2月には、テレビの前で、候補指名を争ったオバマ大統領を感情むき出しでののしった。元側近からは、「部下にきつく当たっていた」との不平も漏れた。
クリントン氏周辺は、「感情的」「冷酷」といったイメージが、大統領選敗北の一因になったと分析している。
クリントン外交の大きな目標自体、ブッシュ前政権で悪化した対米感情の改善にある。今回の歴訪を「リスニング・ツアー(聴聞の旅)」(米外交専門家)と位置づけたのは、長官就任を機とする“イメチェン”作戦の一環と言える。
変わらないものもある。女性や子供の人権問題への取り組みや、原色の上着と黒いパンツを合わせるファッション。そして、夫で大統領を務めたビル・クリントン氏との同盟関係だ。
「ビルはヒラリーの指南役を務めており、今回のアジア歴訪でも留意点を説明した。まるで『影の国務長官』みたい」。米大手紙記者は、2人の関係をこう表現した。
クリントン氏は、ファーストレディー時代、医療保険改革などで夫を助けたが、今度は、夫の方が「内助」の役回りを担っている。