パキスタンの「核開発の父」カーン博士に特殊磁石など核関連資機材が日本から大量輸出されていた問題で、博士側との取引窓口だった東京の商社ウェスターン・トレーディング(WT社、二〇〇四年に破産)が一九七〇年代末、ウラン濃縮用遠心分離機への電力供給に不可欠なインバーターの輸出を画策。動きを察知した米政府の圧力で中止に追い込まれていたことが十六日、分かった。同社関係者が証言した。
パキスタンが日本でインバーター調達を試みたことに関しては、国会でも八〇年代に取り上げられたが、輸出断念の背後にパキスタンの核開発に神経をとがらせる米政府の圧力があったことなど、具体的経緯が明らかになったのは初めて。
WT社関係者によると、カーン博士は七九年、資機材調達担当のビジネスマン、ファルーク氏を通じて同社にインバーターの調達を依頼。WT社は幹部と営業担当をイスラマバードに派遣し、輸出予定のインバーターの見積もりを博士に提示した。博士はその場で注文書にサインした。
商談成立を受け、WT社が都内の大手重電機メーカーにインバーターを発注しようとしたが、メーカー側は「米政府からインバーター製造を止めてほしいとの連絡があった」とWT社に伝達、輸出は見送られた。WT社はインバーターを「繊維機械用」として輸出する予定だったという。
博士は共同通信に対し「繊維(産業)用インバーターを作っていた(日本の)会社」から調達を試みたとし、日本での調達失敗後、ドイツ企業などから購入したことを明らかにした。
外務省で原子力政策をこの時期に担当した関係者は、パキスタンによる日本でのインバーター調達に関する情報が「七九年か八〇年に在京米大使館から寄せられた」と証言、米政府から注意喚起されていたことを明らかにした。インバーターは当時、原子力供給国グループ(NSG)の取引禁止品目には入っておらず、輸出規制対象外だった。(共同=太田昌克)