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2009年02月16日(月) 00時00分

かごしま弁を語り継ぐ会代表幹事読売新聞

種子田幸広さん(58)
「鹿児島弁を話しもんそ」とほほ笑む種子田さん

 ——鹿児島弁講座を受講したことが、会の設立につながったそうですね。

 長年、観光にかかわる仕事をし、「鹿児島弁で案内できたら街の魅力が増すのではないか」と思い、2007年にかごしま県民大学中央センターの「鹿児島弁講座」を受講しました。講座では、方言を語り継ぐ活動をしている方から、民話を紹介してもらいました。聞いていると童心に戻ったようで、テレビやインターネットの世界にはない温かみを感じたのです。「こんなにステキな鹿児島弁を子どもたちにも使ってもらえるようにしたい」と、受講生の有志で講座の修了後に設立しました。今は20〜70歳代の約30人で活動しています。

 ——活動内容は。

 幼稚園や小学校、高齢者福祉施設を訪ね、鹿児島弁による民話の読み聞かせや紙芝居、寸劇を披露しています。すべて手作り。図書館で紙芝居を借りてきて、鹿児島弁に“翻訳”するんです。例えば、「シンデレラ」で、きれいなドレスに驚いた主人公の一言は「んだもしたーん! まこてみごてドレスじゃなあ!」(まあ、なんてステキなドレスなんでしょう)というように。鹿児島弁には「よんごひんご」(ちぐはぐ)「ちんがらっ」(粉々に壊れるさま)などの、共通語にはないおもしろい響きが残っているものが多い。子どもたちも興味深そうに聞いてくれるのです。

 ——鹿児島弁を取り巻く現状は。

 危機ですね。子どもたちも親もほとんど使わない。私が小学生だった頃は、共通語で話すように学校で指導されたので、「悪い言葉」というイメージを持っている人が多いのでしょうか。あるいは、「私は田舎者じゃないのよ」という気持ちがどこかにあって、独特のイントネーションを隠しているのか。「鹿児島弁は大切な文化」という認識は持っているのに、話さない人がいるのが不思議でなりません。このままでは、5〜10年したら消えてしまうのではないでしょうか。

 ——そんな中、どのようにして広めていこうと考えていますか。

 現在の活動に加え、高齢者から子どもまで幅広く学んでもらおうと、「かごしま弁検定試験」を8月16日に行う予定です。初級、中級、上級を設けて語源などを出題します。7割以上の正解を合格とし、各級の合格者には「かごしま弁博士」の称号を授与。さらに、難易度の高い「殿様試験」もして、成績優秀者には農産物を贈るつもりです。海外在住の人も受験を希望しており、将来はインターネット上でも展開したい。

 孫が祖父母から鹿児島弁を学び、家族のきずなも強くなる——。そんなふうに、私たちの活動が鹿児島弁の良さや家族の温かさを再発見するきっかけになれば、うれしいですね。

 同会への問い合わせは事務局(099・281・4919)へ。

■■横顔□■

 鹿児島市出身。大手旅行会社に約2年間勤務後、同市内に旅行会社を設立した。「仕事以外のことで人生を充実させたい」と50歳で辞職。趣味の和紙すきを、同市西陵と日置市に構えた二つの工房で子どもたちに教えている。

■■ひとこと□■

 「生まれも育ちも鹿児島なのに、鹿児島弁を話さない人が多い」。種子田さんの一言に、ドキッとした。まさに私のことだった。

 嫌いな訳ではない。他県で同郷の人と会えば方言丸出しで、温かく優しい響きに緊張感がほぐれていくのも知っている。なのに、共通語もどきを口にして「よかまね」(よい格好)をしていたのかも。「おまんさーもかごんまがすっきゃったろ? じゃったらもっと語いもんそ!」。種子田さんにそう言われ、余計な力が抜けた。

 まずは、子どもたちに話しかける時に使ってみよう。鹿児島弁の読み聞かせに耳を傾ける子どもたちの様子を、ほおを緩ませながら話す種子田さん。その姿をみているうちに、ふと思った。(松下浩子)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kagoshima/news/20090216-OYT8T00269.htm