小泉純一郎元首相の痛烈な批判を機に麻生太郎首相の求心力が一段と低下、自民党内で「麻生降ろし」が公然と語られるようになった。党執行部は結束を訴えるが、二〇〇九年度予算成立後に首相交代を求める動きが一気に「炎上」するとの見方もある。
ただ有力な後継候補は見当たらず「麻生首相で我慢して戦うしかない」との声も根強い。首相が「景気悪化」を理由に〇九年度補正予算編成に踏み切れば、麻生降ろしも先送りになりそうだ。
「改革を逆戻りさせ古い自民党に戻そうという人と、改革を進め新しい自民党をつくろうという人と両方いることは事実だ」。中川秀直元幹事長は十三日の会合でこう指摘し、構造改革路線を推進する新たな議員連盟を予算案衆院通過後に旗揚げする意向を表明した。
首相への批判的な言動から、所属する町村派で降格処分を受けた中川氏が「戦闘再開」を宣言したのは、小泉氏発言で党内の空気が大きく変わると読んでいるからだ。
実際、小泉氏の首相批判を受け「麻生首相では衆院選を戦えないという認識を確認した」と語る中堅・若手は少なくない。古賀派若手は「七月の『サミット花道論』ではなく、四月の『金融サミット花道論』でもいい」と主張。中堅議員の一人も「予算が成立すれば本格的な『麻生降ろし』になる。新しい総裁の下ですぐに衆院解散だ」と意気込む。
昨年末、小泉チルドレンが「私たちは当選一回で首相指名を四回やった」とぼやいたのに対し、小泉氏が「五回目があるかも」と「予言」したとの話も広がっている。
ただ、麻生降ろしが簡単でないのも事実だ。党則には、臨時総裁選を要求できる事実上のリコール規定があるが、党所属国会議員と都道府県連代表各一人の合計の過半数が必要で、必ずしもハードルは低くない。
安倍晋三、福田康夫両氏が二代続けて一年で政権を投げ出したことも影響する。津島派若手は「内閣支持率低迷は首相がころころ代わったのも一因。また『顔』を代えれば批判の方が大きい。それを吹き飛ばすだけのカリスマ性を持った後継者もいない」と指摘する。
福田前首相の退陣を主導する形となった公明党も「自民党で麻生降ろしが始まっても、次を誰にするという展望がない。そういう状況で公明党が発言することはない」(幹部)と静観の構えだ。
こうした状況を踏まえ、首相周辺は「麻生氏を代えて、ほかに誰がいるのか。首相の足を引っ張れば結果的に自分に降り掛かる。それが小選挙区制だ」と乗り切りに自信を見せている。
また急激な景気悪化を受け、首相が〇九年度予算成立直後から補正予算編成、成立を目指せば、その間は与党として支えざるを得ない。執行部内で比較的、首相に距離を置く石原伸晃幹事長代理は十五日のテレビ番組で「首相を引っ張り降ろす余裕は与党にも国民にもない」と述べた。