【イスラマバード15日共同=遠藤幹宜】一九七〇年代以降、パキスタンの核兵器計画を主導した「核開発の父」カーン博士に、特殊磁石など核開発に必要な資機材が複数の日本企業から大量に輸出されていたことが十五日、博士の証言で分かった。取引に携わった日本側関係者も、八〇年代に少なくとも六千個の特殊磁石を輸出したと明言。唯一の被爆国、日本の一流メーカーが、パキスタンの核開発に結果的に協力し、資機材供給体制に組み込まれていた実態が初めて判明した。
特殊磁石は「リングマグネット」と呼ばれ、原爆原料の高濃縮ウランを生産する遠心分離機の回転部分を支える部品として使われる。核関連研究に使用可能な電子顕微鏡も他のトップメーカーが輸出しており、博士は「日本は非常に重要な輸入元だった」と強調した。
経済産業省によると、遠心分離機の専用部品は当時の輸出規制対象。取引関係者は、博士側から特殊磁石の用途を聞かされなかったとしているが、一部取引が法令に抵触していた恐れもある。
博士らによると、博士側との取引窓口となったのは東京の中堅商社ウェスターン・トレーディング(WT社、二〇〇四年に破産)。WT社は七〇年代後半、博士の資機材調達担当ビジネスマン、ファルーク氏と取引を開始。同氏の紹介で博士とも接触し、核開発に応用可能な資機材調達の依頼を受けるようになった。
取引関係者は、WT社が八〇年代前半、日本の大手金属メーカー製リングマグネットを複数回輸出したと証言。博士も日本からの輸入を認めた。メーカー側は「WT社との取引はなかった」としている。
博士はまた、日本電子(東京)の電子顕微鏡を輸入したと言及。日本電子関係者も、電子顕微鏡二台とエックス線解析装置を博士側に納入したと認め、遠心分離機素材の組成分析に使われた可能性が高いと語った。
日本電子広報部は、八〇年代後半に電子顕微鏡一台をカーン博士に販売した事実を確認し「取引に際しては法律にのっとった対応をしていた」とコメントした。電子顕微鏡は当時、輸出規制対象外だった。
博士はこのほか、日立精機(〇二年に経営
博士は「核の闇市場」を八〇年代末に構築、北朝鮮やイランに遠心分離機を供給した。