【ソウル=浅野好春】北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記は16日、67歳の誕生日を迎えた。
総書記は1月23日に中国共産党幹部と会談、脳卒中などからの回復を内外にアピールしており、当面の健康状態に問題はなさそうだ。
だが、一時は「数週間にわたり執務不能に陥った」(ブレア米国家情報長官による2009年版脅威評価報告)とされ、病気の再発に伴う権力空白を防ぐため、金総書記は今後、後継体制づくりを急ぐ可能性もある。
金総書記の誕生日関連のメーン行事となる「慶祝中央報告大会」が15日、平壌で開かれ、金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長が報告を行ったが、総書記自身は姿を見せなかった。総書記は大会に例年出席しているわけではなく、これは特異な動きとは言えない。
ただ、最近の金総書記は、異例のハイペースで各地の視察を続けている。ラヂオプレス(RP)によると、今年に入っての金総書記の動静報道は13日時点で23件。同期間で10件以上だった例は過去にないという。無論、報道ベースの数字であり、実際に訪れたと断定できないが、健康不安の払拭(ふっしょく)を狙って無理を重ねているようにも見える。
この背景には、韓国民間団体による反北朝鮮ビラ散布や、ラジオ放送で金総書記の健康悪化説が一気に広まったため、これを打ち消そうと国内向けに宣伝しなければならない点がある。
オバマ米政権発足を意識して「米朝交渉」を誘導する狙いも込めているようだ。金総書記との直接対話の用意を表明しているオバマ大統領に、「私は元気だから、いつでも対話に応じられる」と、間接的に呼びかけているとみられる。
だが、強く疑われる脳卒中など何らかの循環器障害は、いつ再発してもおかしくはない。韓国の専門家の間では、このため、金総書記は金日成(キムイルソン)主席の生誕100年に当たる、北朝鮮の年号で「主体100年」の節目となる2012年に向けて、後継体制づくりを急がなければならなくなったとみる向きが多い。さらに、後継者指名の前倒しもあり得る、との見方もある。
朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は12日付で、金日成、金正日父子に続く「3代目の世襲」を予告するかのような政論を掲載した。
後継体制をめぐっては、集団指導体制への移行も取りざたされるが、後継者を具体的に指名するとなれば、金総書記の長男の正男(ジョンナム)(37)、次男の正哲(ジョンチョル)(28)、三男の正雲(ジョンウン)(25)の息子3人を軸に検討を進めるとみられている。