岐阜県養老町の食肉卸小売業「丸明」の飛騨牛偽装事件で、不正競争防止法違反(虚偽表示)の罪に問われた前社長吉田明一被告(66)の13日の初公判で、起訴内容を認めた吉田被告の偽装の動機について、検察側は「最上級の5等級のシールを張れば見栄えがよく、取引先や消費者を喜ばせることで丸明の利益につながると考えた」と説明した。
次回公判は3月4日で、被告人質問などを行い結審する予定。
検察側は冒頭陳述で、さしと呼ばれる脂肪の入り方を根拠に最上級のシールを張りながら、格下の4等級肉を使用した理由を「5等級を使用すると赤字になると思ったから」とも指摘した。
また、肉を箱詰めする作業を行う養老店に4等級肉を工場から配送することで、同店の責任者だった妹(56)=同法違反罪で罰金の略式命令=に対し、偽装を暗黙の了解として指示したと指摘。取引先との商談を担当していた次男(38)=同=にも、偽装を前提とした上で商談させる考えだったと述べた。
起訴状などによると、吉田被告は2007年10月中旬から同11月中旬までに、4等級を含む飛騨牛1000箱を1箱600グラムで箱詰めして「飛騨牛最上級品5等級」のシールを張り、大手ビール会社の懸賞品として取引先の広告制作会社に販売したとされる。1000箱のうち少なくとも543箱に、格下の4等級が詰めてあったという。
吉田被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。
◆一従業員の吉田被告、今も「オーナー」
丸明は昨年9月、約3カ月にわたった営業自粛を解除した。以降は大手スーパーなどとの取引はやめ、岐阜県養老町と高山市など直営店4店舗での小売りだけで業務を再開。12月に吉田被告ら幹部3人が逮捕されて会社は揺れ続けたが、同社の高木晋吾管理室長によれば、客足は順調に回復しているという。
吉田被告は社長を退き、現在の身分は一従業員だが、同社の大株主には変わりなく、社内では今でも「オーナー」と呼ばれているという。昨年末の保釈後も、肉牛や枝肉の仕入れを主に担当。先日、本人が仕入れに出掛けた飛騨地方で、肥育農家から刑の減軽を求める署名を手渡された。養老町内の住民の署名と合わせ、13日に高木室長が弁護士に手渡した。
保釈後、従業員には「適正な商売をしなければいけない」と話しているという。親しい関係者は「保釈直後はショックで元気がなかった。留置場での生活や、特に身内の幹部まで逮捕されたことがこたえたようだ」と語る。
一方、同町内の同業者は「食肉業者にとって特に重要な業務は仕入れ。それを担当して本人がひんぱんに市場に顔を出しているらしいが会社も含めて本当に反省しているか疑問」と首をかしげる。