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2009年02月14日(土) 16時20分

メール時代に「手書き」の良さ再発見、ノートが若者に人気読売新聞

オシャレになった大学ノートを選ぶ若い女性たち。「かわいい」との声が漏れる(13日、東京・丸善丸の内本店で)=横山就平撮影

 社内文書や年賀状、ラブレターもメールで、という時代。ところが若い世代を中心に、ノートなど「手で書く」文房具の人気が高まっているという。

 算数、社会など科目ごとにマス目が工夫され、発売開始から約40年間、全国の小学生に使われてきた「ジャポニカ学習帳」。富山県高岡市の「ショウワノート」の製品だが、昨春、服飾大手「ビームス」(東京・新宿区)などの手でおしゃれな装いに変身した限定品が販売された。

 表紙は、国際的評価の高いアーティストによる風景や外国車などの写真。「ビームスの服を着る大人も、子供時代はジャポニカを愛用したはず」と話すショウワノートの担当者は、「ジャポニカ学習帳を手に会議に出席、というビジネスマンもいる」と驚く。限定販売は好評のうちに終わり、同社は「大人にも満足してもらえるノートづくりにつなげていく」と自信を示す。

 黄色と黒の2色が交わる表紙でおなじみの、「マルマン」(渋谷区)のスケッチブック「図案シリーズ」。1958年の誕生から半世紀を記念して昨年、「特別サイズ」が販売された。

 同じデザインの表紙で、新聞を広げたほどの大きさのものから、携帯電話ストラップとして使える約3センチのミニチュアまで、サイズは様々。若い女性らに評判になり、「注文が殺到した」(同社)という。

 景気低迷の中で消費者の購買意欲を高めようと、既存のブランドをアレンジする取り組みは、「リ・ブランディング(ブランド再構築)」と呼ばれる。食品やおもちゃなどの業界でも進むが、「文房具が最も顕著」と文房具メーカーや販売店は口をそろえる。

 見直すのはデザインだけにとどまらない。東京・神田で戦後間もなく創業した「ライフ」は、グレー一色というイメージの強い大学ノートの表紙を、昨年、女性デザイナーの意見をもとにオレンジや水色のカラフルな色彩に一新した。中でも一番こだわったのは「紙質」だ。

 「書き味にうるさい人の要求にも応えよう」と、何人もの万年筆愛好家に試し書きしてもらい、ペン先の滑り具合や、万年筆メーカーごとに成分の違うインクのにじみ方を研究して専用紙を開発。製本も職人の手作業というこだわりで、「優れたノートとしてだけではなく、小物としても楽しんでもらえる」と、同社の斉藤裕営業部長は胸を張る。英国など海外のインテリアショップにも並ぶ人気商品となっている。

 「丸善」(東京・中央区)によると、丸の内本店での文房具の売り上げは2004年から毎年、前年を5%以上上回っている。ノートやメモ帳などは売り上げが前年比約15%増の年も。

 都内で文具店を経営し、「文房具愛好家」として雑誌やネットで発言を続ける萩原康一さんは「若い世代にも、手書きの良さが再認識されているのでは」とみる。「手で書かれた手紙を読むと、文字の向こうから相手の顔が浮かんでくる温かさがある」

 新聞記者の取材現場では、昔も今も「手書き」が主流。怒りや喜びを強くとどめるためには、ペンとノートは手放さない。そう思っている。(金杉康政)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090214-OYT1T00542.htm