【ワシントン=本間圭一】クリントン米国務長官は13日、ニューヨークで行ったアジア政策に関する初の包括的な演説で、「太平洋を超えた強いパートナーが必要だ」と訴え、安全保障から経済危機まで幅広い懸案についてアジアとの協力を深める姿勢を打ち出した。
15日からのアジア4か国歴訪では、実利や国益を重視した「脱イデオロギー外交」で臨む方針も示し、「世界の民主化」など理念先行だったブッシュ前政権の外交との違いを鮮明にした。
演説で目立ったのは、アジアとの「パートナー関係」重視だった。
「アジアの全パートナーとの関係は、我々の安全保障と繁栄にとってかけがえのないものだ」
「米国はアジアに、今まで以上に積極的かつ粘り強く関与する」
共同で取り組む具体的課題としては、経済危機や核不拡散、地球温暖化、貧富の差を列挙した。背景には、アジアの影響力が増大し、これらの問題をアジア抜きでは解決できないとの認識がある。
アジア諸国の国内総生産(GDP)は2015年には世界の約3割を占めると予測される。オバマ政権の喫緊の課題である金融危機対策で、日中の金融当局との政策協調はカギを握る。温暖化対策でも、長官は、「中国は今や、(温室効果ガスの)最大排出国になった」と指摘し、中国を排出削減努力の枠組みに取り込む必要性を訴えた。
一方、長官は演説で、「1隻の船で嵐の川を渡る時、敵同士でも協力して生き残りを図らねばならない」と、「呉越同舟」の教えを引いた。意見の違いや過去の確執を乗り越え、大きな目標のため共闘する重要性を強調したものだ。
長官は、弁護士やファーストレディー時代を通じ、女性や人権問題に積極的に取り組み、直截(ちょくせつ)な発言は、時に関係国の反発を招いた。1995年には、北京で開かれた国連世界女性会議で中国の人口政策などを批判し、国際的な注目を浴びた。
対照的にこの日は、チベット系住民に宗教の自由を与えることや、北朝鮮の国民が自由に指導者を選出できることへの期待感こそ表明したものの、当局への直接批判は避けた。北朝鮮に対しては、核開発を放棄すれば、国交正常化を検討するという「オリーブの枝」(ワシントン・ポスト紙)までさし出した。歴訪でも、鋭い舌鋒(ぜっぽう)はひとまずおさめ、「まずは話を聞く」考えを示している。
ただ、北朝鮮や中国に対し弱腰と見なされれば、米国内の保守勢力だけでなく、民主党の支持基盤であるリベラル勢力からも反発を招く恐れがある。長官は、軍事力に文化交流などを組み合わせた「スマートパワー」を活用し、アジアとのパートナー関係を拡大・深化させる考えだが、対話路線が行き詰まった場合の方策について、この日言及はなかった。