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2009年02月14日(土) 20時15分

名古屋発信「産業観光」定着 中部、全国で突出280件東京新聞

 新しい観光分野の「産業観光」が名古屋から発信されて10年がたち、ものづくり産業が集まる中部地区で定着しつつある。産業を観光資源と見立てた着眼点が売り物。日本観光協会も「模索の時期」から事業モデルを打ち立てる「第2ステージに移った」とみている。

 4年前に浜松市の浜松技術工業団地にできた生産現場を公開する「うなぎパイファクトリー」。年間の来場は40万人にのぼり、今や浜松観光のドル箱だ。「生産工程が確認でき、中国の子供たちにとっても日本の工場が分かる」。中部9県などでつくる中部広域観光推進協議会が昨秋、中国の教育旅行誘致を狙って招いた上海市の教育機関視察団から高い評価を得た。

 この取り組みは中部地区への中国人観光客が目立って多いのを背景に昨年始められた。トヨタグループのものづくりを紹介する名古屋市西区の産業技術記念館(トヨタテクノミュージアム)などにも別の視察団が訪れ、いずれも好評だったという。

 地場産業がそのまま観光ルートに乗る。そんな産業観光のきっかけは愛知万博(2005年)。世界的な知名度もない愛知をアピールするため、名古屋商工会議所が発案、提唱した。

 言葉が先行していたが、同商議所が観光イベントの参加者らを対象に昨年実施した意識調査では、8割近くが「産業観光を知っている」と回答した。全国に約1060件ある産業観光対象施設のうち、中部9県は計約280件と突出。愛知県では27施設あり、年間約430万人を呼び込む。

 焼き物の美濃、万古、瀬戸、常滑の岐阜や三重、愛知各県の地元6自治体は、まちづくりを念頭に「四銘陶」を掲げた交流、連携活動を進めている。地域を越えて手を結びやすい産業観光の利点を取り入れたケースだ。

 「国際誘客の道具としても使え、まちづくりのツールにもなりうる」。産業観光を推進してきた日本観光協会中部支部の須田寛支部長(78)は展望する。桜花学園大観光文化学科の森川敏育教授(64)も「観光ニーズと企業の門戸を広げる部分がうまく合えば飛躍的に伸びていく」と語る。

 中部広域観光推進協議会は「永続的にする仕組みが必要」と今後5年間にわたる観光ビジョンの柱の一つに産業観光を据えている。ただ、世界的な不況で中国などからの外国人観光客が停滞しているのが気がかり。このため、観光振興を支援する中部運輸局は「ビジット中部緊急キャンペーン」を開始。これまで情報発信していない海外の企業や旅行業者、団体などに産業観光を含めた中部の観光情報を提供。外国人観光客の誘客を狙う。

 【産業観光】 愛知万博開催が決まった1998年、名古屋商工会議所が提唱。歴史的な文化価値が高い工場遺跡などの産業文化財のほか、工場や工房、工業製品、農林水産業などの生産現場を観光資源とする。観光庁は「地域独自の魅力を生かした新しい観光形態」と定義。国は2006年、観光立国推進基本計画にニューツーリズムの一つとして位置付けた。

(中日新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2009021490200800.html