米イリジウム社の通信衛星とロシアの使用済み衛星がシベリア上空800キロ・メートルで衝突した事故は、宇宙空間が不要なごみで満ちている現実を、改めて浮かび上がらせた。
過去には、宇宙ごみが米スペースシャトルの貨物室に当たって穴が開いたし、小石のような小さなごみでも、船外活動中の飛行士に当たれば、宇宙服が破損して大事故になりかねない。国際宇宙ステーション(ISS)に飛行士が常駐するようになったいま、宇宙ごみは人命にもかかわる切実な問題だ。
米航空宇宙局(NASA)によると、人工衛星の破片など、大きさが10センチ・メートル以上の宇宙ごみは約1万個に及ぶ。現役の衛星は約800基なので、宇宙に漂う人工物の大半はごみということになる。花田俊也・九州大准教授によると、10センチ・メートル以上のごみが絡む衝突は、5年に1回程度は起きる計算だという。
衛星同士の衝突は今回が初めてだが、1996年にはフランスの偵察衛星も破損したし、宇宙ごみ同士の衝突も2例報告されている。「衝突は新たな破片を作り出し、その結果、さらに衝突の確率が増す悪循環に陥る恐れがある」と花田さんは指摘する。
宇宙ごみは、人工衛星の打ち上げが本格化した1960年代から増え続けている。おもに、寿命が尽きた衛星がそのまま長く宇宙空間に漂うからだ。大気圏に落ちてくれば燃え尽きて消滅するが、高度1000キロ・メートルの衛星なら2000年もかかる。
国連は2007年2月、寿命を迎えた衛星は、燃料があるうちに大気圏に向けて軌道を変更し、ごみとして宇宙に残さないよう求めた。
10センチ・メートル以上の宇宙ごみは、地上観測で軌道を予測できる。それをもとに、米スペースシャトルは1〜2年に1回の割合で実際に回避しているし、若田光一さんが近く長期滞在するISSも、「史上最も強固な宇宙船」(NASA)とはいえ、エンジンを噴射して避難する。だが、それ以下の大きさのごみは把握できず、いわば運任せ。ISSでは、もし穴が開いたら隣の部屋に避難することになっている。
国内では日本スペースガード協会が、日本の衛星に近づいてくる宇宙ごみや、日本の衛星の残骸(ざんがい)の行方を監視している。同協会の高橋典嗣(のりつぐ)理事長は「今回の事故をきっかけに、宇宙ごみに真剣に取り組む機運を高めていく必要がある」と話している。(増満浩志、三井誠)