キヤノンの工場建設を巡る法人税法違反事件で、脱税の舞台となった大分市の2事業所の用地造成工事について、キヤノンが事業主体の大分県土地開発公社に対し、鹿島への発注を求める「要請文」を送っていたことがわかった。
工事は要請通り、計約80億円の随意契約で鹿島が請け負っていた。鹿島はこの工事でも、東京地検特捜部に逮捕された大分市のコンサルタント会社「大光」社長・大賀規久容疑者(65)側にリベートを提供したとみられ、大賀容疑者の口利きを背景に「鹿島ありき」で業者選定が進んだことがうかがえる。
同公社はデジタルカメラ工場の用地造成を2003年12月に約31億6700万円で、プリンターカートリッジ工場の用地造成を05年7月に約48億1300万円で、鹿島に発注したが、キヤノンは契約のそれぞれ約10〜20日前に総務本部長の常務名の要請文を公社理事長あてに送付していた。
いずれの文書でも、造成から建物建設までの期間が短いとしたうえで、「安全性や価格競争の面で群を抜き、必ずや弊社の期待する迅速な事業が実施される」などと鹿島を称賛。「鹿島を選定していただくよう、特段のご配慮をお願い申し上げます」と推薦していた。
公社の内規では250万円を超える工事は原則的に入札を行うことになっていたが、公社も「緊急性を要する」として要請を受け入れ、ほかの大手ゼネコンから見積もりをとることもなく、鹿島との随意契約に踏み切っていた。
緊急性を理由とした随意契約は台風などの災害時以外には適用例がなく、契約当事者以外の企業の意向に沿って発注先を決定するのも極めて異例。同公社の久保隆専務理事は「キヤノン誘致が前提の工事なので、意向を打診したが、あくまでも公社が主体となって鹿島を選定した」と話しているが、選定経緯を示す記録は残っていないという。
同公社は、キヤノンが07年11月に進出を表明した同県日田市のプリンター関連工場の用地造成工事についても、当初、鹿島に随意契約で発注する意向を示していた。しかし同年12月、鹿島が2事業所に絡んで東京国税局から約6億円の所得隠しを指摘されたことが発覚し、指名競争入札に切り替えられた。
キヤノン広報部は「公社側から鹿島と随意契約して構わないか意向確認したいと言われ、書面を出した」と説明している。
◆逮捕元県議長、公社理事時代に鹿島から50万円◆
大分市のキヤノン関連2事業所進出を巡っては、脱税事件で逮捕された元大分県議会議長の長田助勝容疑者(80)が、鹿島に用地造成工事を発注した県土地開発公社理事時代の2005〜06年頃、鹿島側から計50万円を受け取っていたことがわかった。
長田容疑者は「大光」グループのコンサルタント会社「ライトブラック」(大分市)の監査役に就く一方、07年4月まで7期県議を務めたが、50万円は政治資金収支報告書にも記載していなかった。
長田容疑者が公社理事をしていたのは00〜07年。取材に対し、長田容疑者は鹿島の支店幹部から2回にわたって現金を受け取ったことを認め、「年末だったのでお歳暮のつもりだった。多忙で収支報告書への記載を忘れた」と釈明、「鹿島に受注の便宜は図っておらず、謝礼ではない」と話した。
一方、2事業所のうちプリンターカートリッジ工場については、大分県が実際にかかった費用よりも安い価格でキヤノンに用地を売却したとして、市民オンブズマンが広瀬勝貞知事を相手取って、差額18億円の返還を求める訴訟を大分地裁に起こしている。
同県などによると、県は当初、工場用地(37・1ヘクタール)の取得・造成費を61億円と見積もりながら、キヤノンとは50億円で譲渡する契約を締結。実際には市道移設が必要だったことなどから約68億円かかったが、差額の約18億円をキヤノンに求めず、補助金を公社に支出して穴埋めした。
広瀬知事は「誘致競争が激しくなるなか、リスクを負うことも必要。工場稼働後の税収増などで取り戻せると判断した」と説明するが、オンブズマン側は「キヤノンと価格交渉を行わなかったのは、知事の裁量権を逸脱している」と主張している。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090212-OYT1T00041.htm